2020/04/17『ナイフ』『電話』『未来』
ある日、ボクは不思議な噂を聞いた。
『ねえ、ひろ。友達から聞いたんだけど、黒電話とナイフを使うと、未来の自分とお話しできるらしいよ』
どうやら、黒電話の受話器を取り、ナイフを使ってダイヤル板の上に、下から上に向いた矢印の傷をつけ、そのあと「**503812」とダイヤルを回すだけ、らしい。ちなみに、「**」には何年後の自分と話したいのかを入れるらしい。例えば、3年後なら「03」、12年後なら「12」というふうに。
ボクは早速、試してみることにした。
家族に邪魔をされないよう、電話をかけるのは夜中にした。うちの電話に傷をつけたら怒られるから、今日の朝、不燃ゴミを出しに行ったときに捨てられていたものを拾ってきた……電話って、不燃ゴミなの?
……まあ、それはともかく、始めよう。
ボクが話してみたいのは、17年後、25歳の自分。
その時ボクは、どんな人になっているんだろう?
ガチャリ。まず、受話器を取る。
ガリガリ。ダイヤル板の上に、上向きの矢印。
ジーコ、ジーコ……「17503812」とダイヤル。
受話器を耳に当て、未来のボクの声を待った。
『……もしもし?』
「もしもし。……25歳の、原田ひろさんですか」
『そうですけど……ああ! もしかして、17年前のわたし?』
「そうです。こ、こんばんは」
『そういえば夜に電話をかけたなぁ。懐かしいな。こちらはまだ真っ昼間なんだ。こんばんは』
受話器を握る手に、汗がにじむ。
「あっ、あの……『未来のボク』は、どんな人に、なっていますか?」
『それは教えない。だって、未来は『今の自分』が作るものだからさ。キミは、どんな人になりたい?』
未来のボクは、受話器の向こうで楽しげに笑った。
『いいことを教えてあげよう。わたしがどんな人かは、キミが決められることなんだ。だから、17年間頑張って、わたしが目にしているものを見においで。今ここから見えている景色は、とても明るくて、キラキラと輝いているよ』




