2020/04/16『青』『暴力』『真実』
「「わたしはこれから、真実のみを語ります」」
目の前で被疑者は、そう誓う。
警察でも検察でもない私は、ただ目の前にいる人の言葉に耳を傾け、魔法を使い、青いインクを詰めた万年筆で、羊皮紙に文字を綴るだけ。
『視界に捉えた人の言葉を直接聞くことによって、その言葉を一字一句間違わずに記すことができる』
『もしその人の発言に嘘があれば、それを暴くことができる』
それが、私の魔法だ。
「わたしの名は、ユーリ・フィルロッタ。妹のリリー・フィルロッタに暴力を振るい、殺した罪で捕まった者です」
被疑者が口から音を紡ぎ出すと同時に、私の腕は、その先にある万年筆は、青い文字の羅列を編み出す。
「事件の起こった日の朝、わたしはふとリリーに会いたくなって、彼女が暮らす実家に帰ることにしました。一人暮らしを始めてから三年近く経っていましたが、里帰りをするのは初めてのことでした」
――嘘はない。
「家に帰ったわたしは、驚いたんです」
ここまでは、順調だ。
「……妹は、とても勤勉な少女でした」
私の意思とは関係なく、魔法でひたすら、文字を記していく。
「「けれど、わたしが家にいない三年の間に、リリーはかなりの怠け者になっていましてね。わたしは激怒しました」」
……なるほど。
「約束したんです。わたしがいない間も、真面目な子でいると。言い出したのは、リリー自身でした」
青い文字。これは、真実か。
私が考え込んでいることには気付かず、被疑者は言葉を紡ぐ。
「「いつの間にか、妹を殴っていました。気が済むまで暴力を振るって、そして、気が付いた時には……リリーは、死んでいたんです」」
ぽたり、ぽたり。涙を流す、被疑者。
「……以上、です」
私は一つ、頷いた。
「……さて、あなたは三回、嘘をつきましたね」
私はそっと、口を開く。
「一回目。あなたが実家に不在のうちに、妹さんが怠惰な人になっていて、あなたは激怒した――これは、嘘です」
羊皮紙には、青い文字に混ざって、血のように赤い文字が、数カ所紛れ込んでいる。
この赤こそが、真実でないことの印。
「二回目。あなたは妹を殴り、殺したと言いましたね――これも、嘘です」
被疑者は俯き、ひたすら涙をこぼすのみ。
「三回目。あなたは一番最初、真実のみを告げると誓いましたね。しかし、青い文字でなければならないその宣誓文が、真っ赤に染まっていますよ」
私はそっと、被疑者を見つめた。
「あなたは、誰の罪を被ったんですか?」




