2020/04/09『酸っぱい』『戸惑い』『現実』
一人の妖精、パウルが誤って時空を超えてしまい、現実世界に来てしまった。
初めて見た高層ビルや車、その他もろもろの物たちに戸惑い、驚きながら、パウルは食べ物となる花の蜜を探す。それが見つからなければ、近いうちに餓死してしまうからだ。
あたりを歩き回っている人間には、姿が見えていないようだった。突然現れた妖精を目にした人に騒がれることがないことは幸いだったかもしれないが、花の咲いている場所を訊けない点では不幸だったかもしれない。
けれど、そんなことを考えていても仕方がない。パウルは空に舞い上がり、花畑を探した。
しかし、そう簡単には見つからない。
そのうち、パウルは力尽きて地面に降り立った。
もう終わりか、そんなことを考えた時、目の前に小さな花が咲いているのを見つけた。
下手したら妖精よりも背丈の低い、蜜もそこまでなさそうな花。でも、ないよりかはマシだ。
「……これで、少しは……」
パウルは、花の蜜を口にした。
しかし、次の瞬間には目を丸くして叫んでいた。
「……うわっ、酸っぱい!」
そう、花の蜜だというのに、それはとても酸味が強かったのだ。
「な、なんで……?」
目を白黒させていたが、そのうち、お腹をさすりながらパウルは呟く。
「でも、ちょっとだけ、空腹は満たされたかも」
この感じなら、少し眠れば、きっと体力も戻るだろう。だから一旦、一休み。パウルはそう決めると、なんとか翅を動かし、木の枝に上がって寝転んだ。
そのうち、人には聞こえない寝息が、あたりに響き始めた。




