2020/04/08『妖精』『受難』『都市』
妖精は、花の蜜を主食とする生き物だ。
しかし、その年は何故か、花があまり咲かなかった。
食糧のない彼ら彼女らは、力を振り絞って遠出をしわずかな花を探すか、1日をほぼ寝て過ごし体力を使わないようにした。
そんなある日、なんとか住処を離れて食べ物を探していた妖精、パウルは、見たことのない花を見つけた。
「な、なんだこれ……!」
薄紫色の花びらは、朝露に濡れて銀色の光を放つ。それからは、今までに見たどの花よりも、甘い香りが漂ってきていた。
その花は、群生していた。たくさんの妖精たちが蜜を食べても、余りそうなほど。
「ここにみんなを連れてくれば……そうすれば、助かるんだ!」
満面の笑みを浮かべ、パウルは歓声をあげる。
けれど、力がなければ、何も出来ない。パウルは疲れ果て、もうフラフラだった。
「……少しだけ、少しだけ休んでから……」
ここ最近、ずっと何も食べていなかったパウルは、甘味の強い花の蜜を味わった。
「……あれ?」
パウルは、突如変わった景色に戸惑った。
「どこだろう、ここ……」
それもそのはず。
さっきまであった花畑は消え失せ、替わりに現れたのは、パウルや他の妖精たちが知らないものたち。
例えば高層ビルや、車や、電車。
現代社会の都市に、パウルは迷い込んでしまったのだ。
「どうしよう……ここ、花が全然ない! このままだと死んじゃうよ……。っていうか、どうしてこんなところに……?」
パウルは念のため、近くに植えられていた木の根に隠れ、考え込んだ。
「……もしかして、あの花の蜜のせい? いや、まさか……」
パウルは疑っているが、その予想は当たっている。
あの花の蜜には、時空を超える力があったのだ。
元の世界に戻りたいならば、もう一度あの蜜を食べなければならない。
しかし、この現実世界で同じ花が見つかるのか。
いや、そもそも、パウルはこの世界で生き延びることができるのか。
パウルの身に降りかかる災難は、まだまだ終わらない。




