表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/430

2020/04/06『聖剣』『苦い』『しょっぱい』

 聖剣を片手に、勇者は歩く。

 後ろに仲間を引き連れて。

 向かう先には魔王がいる。


「……懐かしい剣だな」

 勇者を見た魔王は、そう言った。

「懐かしい? ……ここで勇者を倒したことがあるのか!?」

 怒りの滲む声でそう言う勇者に、魔王は「勘違いしないでくれ」と嘆息する。

「そんなことをしたことはないぞ? 皆、わたしの話を聞いて帰っていく、それだけだ」

「なっ……!」

 勇者は目が飛び出しそうになる程驚いた。

 何故って、歴代の勇者たちは、必ず魔王の首を持って帰り、それを討伐したという印にしていたからだ。

 それを話すと、魔王は「それはわたしが渡した『裏切り者』の首だな。わたしは人に危害を与えろと命令したことはない。むしろ、人に迷惑をかけるなと言っているのだ。ただ、それを無視する部下――裏切り者がいるから、その者を捕まえて処刑している。その首だ」と説明した。

「……あなたはどうして、人に迷惑をかけるなと?」

 勇者の仲間らしき女性が、声をかける。それに魔王は、こう答えた。

「そうだな、昔話でもしようか……」


 何代も何代も前の、勇者パーティーの話だ。

 リーダーである勇者は、過去の勇者よりも、仲間の誰よりも強いと言われた男だった。

 ある日、魔術師と治療師が、彼にとある料理を出した。

「あなたが今まで以上に強くなれるように、研究して作ったの」

「少し苦いけど、頑張って食べ切ってね」

 勇者は喜んで食べた。その料理はとても苦かったが、我慢して完食した。

 すると、何が起こったと思う?

 ――勇者が、魔物になったんだよ。

 剣士は勇者を嘲笑った。

「なあ、知ってたか? お前のことを仲間と思っていた奴は、このパーティー内には誰もいなかったんだぜ? だから魔物になって、俺らに討伐させろよな」

 襲い掛かられた勇者は、慌てて逃げ出した。

 そして、あんな奴らに魔王の討伐など任せられないと感じ、そのまま魔王城に向かい、魔王を一人で倒したんだ。

 すると今度はどうなったと思う?

 ――彼が魔王になったんだよ。

 魔王って、世襲制じゃないんだ。魔王を倒した者が、魔王になる。倒されるまで、死ねない。王がいなくなると困るから、な。

 自分が魔王になるとは思っていなかった彼は、ぼろぼろと涙をこぼした。しょっぱかったよ。魔物でも涙は同じなんだ、って思ったね。

 そしてその後やってきた元仲間たちに、元魔王の首を投げてやったんだ。

「元魔王の首はやるから、もう二度とここには来るな」と言ってね。それでも戦いを挑んできたから、渋々相手をした。元仲間を殺さぬ程度に、でも傷つけて。

「これで魔王と死に物狂いの戦いをして勝利したという栄光が摑めるぞ。それとも、わたしのように魔王になりたいか?」

 そう問いかけると、彼らは元魔王の首を持って帰っていった。

 勇者――魔王は決意したんだ。

 魔物と人間が共生できる世界を作ろう、と。

 そうすれば皆が幸せな世界になるのだから。


「……その元勇者、現魔王が、わたしさ」

 辺りは、しんと静まり返る。

 魔王は、微笑んで勇者たちに問いかける。

「さあ、どうする? 私を殺し、魔王になるかい? それとも『裏切り者』の首を持ち帰り、栄光を摑むかい?」

2020/04/07 0:13

誤字があったので修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ