2020/04/04『雪』『少年』『都市』
この家には、黒いラジカセが、一つある。
朝は起きたらかちりとラジオの電源を入れ、そこから流れるニュースを、音楽を、会話を聞き流しながら、一日を過ごし、そして眠る前にそっと切る。それを、この家に住む三人家族は繰り返していた。
ある冬の日も、家族はラジオを聞いていた。
夕飯時、ふと流れてきた天気予報。
明日は一気に寒くなり、雪が降るでしょう。ラジオの向こうで女性が告げる。
雪が大好きな少年は、くりくりとした目を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
「ねえねえお母さん、明日雪だって!」
しかし、少年の言葉に、母親はどこかそっけなく、こう答える。
「それは東京の話でしょう? この都市には降らないわよ、暖かいもの。せいぜい雨が降るくらいでしょうね。まあ、そのほうがお母さんは嬉しいんだけど」
がっくりと肩を落とす少年。その様子を見かねたのか、父親が優しく声をかけた。
「まあまあ、そうがっかりするなよ。明日のことは、誰にも分からない。お前にも、母さんにも、父さんにも。そうだろう? だから、明日の雪を、楽しみにしてみればいいんじゃないか?」
そう言われた少年は、再び目を輝かせた。
「確かに……そうだね、お父さん!」
明日が楽しみだなぁ、と少年は呟いた。
ラジオは、今日も眺めている。
家族三人の、楽しげな日常生活を。




