2020/04/03『憤怒』『サバンナ』『川』
家族で、世界旅行をすることになった。
飛行機や車を乗り継いで、たどり着いたのはサバンナだった。見渡す限り、乾いた地面が続いている。
「ねえねえ、ここ、川がないね」
車の中で幼い子供が話しかけると、隣に座った母親は頷く。
「確かに、見当たらないねぇ」
「どうして川がないの? みんな、のどがカラカラになっちゃう!」
憤怒の念を覚える子供に語りかけたのは、助手席にいる父親だ。
「川がないわけじゃないんだよ。じゃあ、これから見に行こうか」
「行くっ!」
父親はその返事を聞き、運転席にいるガイド兼運転手に「川に連れて行って欲しい」とお願いした。
動物が草を食べたり、駆け回る様子を眺めていると、不意に父親が声をあげる。
「ほら、川が見えてきたぞ!」
「うわあっ、本当だ!」
そこには、綺麗とは言えないかもしれないが、大きな川があった。
「本当にあった!」
「だろう? あまり時間もないから、川とはこれでお別れだよ。ばいばーいってしてごらん」
父親に言われ、子供は外に向かって手を振った。
「ばいばーい、川さーんっ」
車は、水の流れから離れていく。
「よかったぁ、川があって」
子供は胸を撫で下ろし、また窓の外を眺め始めた。
その様子を、両親は優しく見つめていた。




