2020/03/30『漫画』『暮らし』『姫』
一人の漫画家が、物語を紡いでいた。
独り、寂しい時間を過ごす子供たちのそばにある一冊になればいい。これを読んで寂しさを忘れてもらえればいい。そう、思いながら。
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一人の姫君が、市民に紛れて暮らしている。
自分が王族なのだと知らないまま。
貧しい子供たちとぼろをまとい、駆けまわる。
楽しげに笑い、歌っている。
彼女が歌うと、草木が笑う。風が踊る。
――彼女の歌には、魔法の力があった。
彼女のことを、高い塔から眺めている少女がいる。
「あの子は、元気なのね。とっても楽しそう」
その塔は『知恵の館』と呼ばれる、王族しか立ち入れない図書館だった。
「あの子は『自然の魔法』を知らず知らずのうちに覚えているのでしょうね。だから私は、『故意の魔術』を学ぶの。あの子のことを守れるように」
本を読んでノートを取り、実戦練習を続ける彼女は、市民に紛れて暮らす姫君の双子の姉。
城で暮らす姫君だった。
『自然の魔法は、草木が、風が、生き物に宿る力が自ら力を貸すからそう呼ばれます。故意の魔術はその逆。生命に宿る力を無理やり動かし、言うことを聞かせるからそう呼ばれるのです。片方だけではだめなのです。その両方があるからこそ、人は幸せになれるのですよ』
両親が彼女に伝えた言葉が、妹を守りたいと願う気持ちが、彼女を突き動かす。
どんなに辛くても、何度失敗しても、諦めない。
再び妹に出会う日、情けない姿は見せたくない。
***
――紙に描かれた二人の姫君は、物語を読むたくさんの子供たちの友達になったという。




