2020/03/27『黄色』『過去』『机』
夜の学校を歩き回る、少年と少女。
黄色い服を身に着けた二人の姿は、ほんのりと透けていた。
――そう、二人は、幽霊なのである。
「ねえ、ゆーくん」
「なあに、ひーちゃん」
二人の会話が、人気のない廊下に反響して消える。
「ゆーくんはさ、新しいお友達、ほしい?」
とある教室に入りながら、にこにこと笑って問いかけた少女に、少年は少し、考えて。
「んー……いらない」
少しつらそうな顔で、そう言った。
「どうして?」
少女にとっては意外な答えだったらしい。が、少年は泣きそうな顔で、呟くように返事をする。
「『新しいお友達』が増えるってことはさ……僕たちみたいな思いをした人が、増えるってことなんだよ」
「……」
二人は黙りこくったまま、教室の中を歩いていく。
「……こういうの見ると思い出すよね、ひーちゃん」
「うん。……苦しかった」
とある机の前で、二人は足を止めた。
そこにあったのは、花が飾られた花瓶と、メッセージカード。
少年が手に取ったカードには、まるで、葬式の時におくられるような言葉たちが……。
「どうして、こんなことができるんだろう」
「私たちの気持ちが……馬鹿にされ、笑われ、いじめられる人の気持ちが、分からないのかな」
「僕らの苦しみも辛さも、知らないのかな」
二人が思い出しているのは、生前の過去。
自分に向けられた悪口、陰口、破られたノート、隠された上履き、濡らされた体操服、ほかにも……。
それらは、二人が死を選んだ理由。
「……こんなもの、いらないよね、ひーちゃん」
「うん。いらないよ、ゆーくん」
顔を見合わせて笑うと、少年は手にしたカードを破り捨てた。
「……ゆーくん、さすがにお花を処分するのはかわいそうじゃない?」
「でも、ここにあるのはおかしいよ」
「うーん……あ、ここはどう?」
少女は花瓶を、教室のテレビ台の上に置いた。
「いいね! なんか教室が華やかになった気がする!」
手をたたいて喜ぶ少年に、少女は得意げな表情を見せた。
「さ、あそぼあそぼ! ゆーくん、今日は何する?」
「図書館行かない?」
「またー? ……ま、いいけどっ」
こうして、また今日も夜は更けていく。




