2020/03/22『暴力』『温かい』『嫉妬』
彼女は本当に、天使みたいな子だった。
ぱっちりとした垂れ目。白い肌。ぷっくりした桃色の唇。くるくるっとパーマのかかった黒髪。
そんな姿をした友達、優香。
誰にでも優しくて、親切で。いつでも笑顔を絶やさない彼女は、クラスの人気者だった。
私も彼女と時間を過ごす時があるけど、一緒にいると、なぜか心が温まるのだ。
居心地がよくて。楽しくて。
――優香のことが、羨ましくて仕方がなかった。
彼女のように親切になれたら、誰とでも仲良くなれたら。何度もそう思った。
ひどい時にはあまりに羨ましすぎて、嫉妬もした。けれど、そんな時でも彼女は優しく接してくれた。
今ではもう、諦めている。
私は優香には、なれない。苦手な人に向かって笑いかけることなんてできないし、嫌いな人には親切にも優しくもなれない。どうあがいても、無理だった。
……人間は、天使にはなれない。
ある日。
塾帰りに、夜道を一人で歩いていた時のことだった。
近くの小道からか細い叫び声が聞こえ、私は驚き、その場に固まってしまった。
――今の音は、声は何だろう。
そっと暗がりを覗き込み、そして、息をのんだ。
……見知らぬ男の人が、座り込んでいる優香の背を、蹴っていた。
何度も、何度も、力強く。蹴とばされる側の彼女は、叫び声をたてぬようにと、口に手を当てていた。
突然男は、パーマのかかった黒髪を引っ張ると、無理に立たせて、何かを言っていた。
優香は……笑っていた。
一切反抗することなく、涙を堪えて。
翌日の学校。
彼女と人気のない場所で二人きりになった時、昨日の夜のことを問いただしてみた。
「……見てたの?」
目を丸くした彼女は、「他の人には絶対言わないでね」と口止めをした上で、暴力を受けていることを話してくれた。
「どうして反抗したり、泣いたりしないの?」
「……そんなことしたら、ますます暴力振るわれるだけだもん」
二人だけの、内緒ね。
そう言って笑う彼女を見たとき、彼女が誰にでも優しく親切で、みんなと仲良くする理由が、分かった気がした。




