2020/03/13『本』『病』『悪魔』
一人の少年は、病を得た。
だんだんと視界を失っていく、そんな病だった。
彼は絶望した。
「目が見えなくなったら……本が読めなくなっちゃう」
――少年は、読書が大好きだったのだ。
日に日にぼやけていく世界に、読めなくなっていく文字に、彼は涙を流した。
そんな、ある日のこと。
『やあ、少年。取引をしないか?』
不意に聞こえてきたのは、そんな場違いな明るい声だった。
「――誰?」
『ボクは悪魔のレイモンド! レイって呼んでね!』
ぼんやりと、黒い何かが見える。これが悪魔なのか、と他人事のように考えていた。
「取引って?」
『ボクはキミになんでもあげよう! 眠らずとも生きていける体でもいいし、すべての人をだませる話術でもいい。キミの願いを全て叶えるよ。そ、の、か、わ、り、キミが死んだら、その命はボクのものだ。だからキミは生まれ変わることができなくなる』
少年は、少しだけ考えた。
「……君なら、僕の目を治せる?」
『もっちろん!』
「――取引しよう」
決断は、早かった。
少年は、視力を取り戻した。そして、銀目銀髪で黒づくめの青年を見た。
「君が、レイ?」
『そうさ。これから一生、キミが僕の名を呼んでさえくれれば、いつでも駆けつけるよ。さっき言い忘れたけど、これも契約の一部だからね』
「そうなんだ。よろしくね、レイ」
『よろしく、少年』
悪魔と契約を交わした少年の目は、レイモンドと同じ銀色になっていた。




