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2020/03/12『酸っぱい』『旅』『星』
星が、輝く。
きらきら、きらきら。
「――今日は、あの人も誕生日か」
ふと、呟いた。
もう旅に出たのは昔のことで、長いことあの街に帰ってはいないのだけど。
今でもあの街に、あの人は住んでいるはずで。
寝床を用意し、火を焚いて、夕飯を作って、食べているときのことだった。人のいないこの原っぱで。
近くに、星色の実がなっている木を見つけた。
その実をもいで、ナイフで切り込みを入れてみる。
――あたりに広がる、柑橘の香り。
それだけで、これが酸っぱいものなのだと何となく察する。
じゅわり、唾液が溢れそうだった。
ぱくり。かぶりつき、肩を竦めた。
予想通りの味に、思わず甲高い声を上げていて。
「……こういうの、あの人ならきっと、喜んで食べるだろうな」
――そう。やはり片割れのことを思い出すのだ。
同じ日、時間、そして場所で、共に産声をあげた、あの人のことを。
「誕生日、おめでとう」
あの人に向けた祝福の声は、静かに輝く星空に消えた。




