2020/03/11『教皇』『机』『森』
――教皇が、死んだ。
突然知らされたその情報は、街の人々を混乱させ、悲しませた。
「とても優しい方だったのに」
「誰に対しても笑顔を絶やさない方だったのに」
人々は彼の死を惜しみながら、葬儀を執り行った。
――数年後。
ひとりの少年が、人気のない森を見つけた。
その森について、少年が大人に尋ねると、皆が「あそこへは行かない方がいいよ」と言った。
「あそこは恐ろしい魔物の住処だといわれているんだよ。危ないから近寄ってはいけないよ」
しかし、禁止されると逆らいたくなるのが、人の性。少年はこっそりと、その森に入っていった。
森の中は薄暗く、少し進んだだけで少年は後悔した。こんなところに、来るんじゃなかった、と。
それでも、少年は森の奥へと進んだ。ここまで来て引き返すのも、なんだか気が引けたのだ。
しばらく歩いていくと、明るく開けた場所に出た。
そこには、木でできた机と椅子が一セット。そして、椅子に腰掛け、机で書き物をする老人がひとり。
その様子が、木々の間から差す光のせいもあってか、神々しく見えたらしい。少年は森を出た後、大人たちに「あの森には神様がいるよ」と言った。
「机で書き物をしている神様を見たよ。僕に気づくと、こちらを見て、にっこりと微笑んだんだ」
それ以来、そこは『神の住む森』として敬われることとなった。
――あの老人の正体は、誰も、知らない。




