2020/03/08『ロマン』『揺らぎ』『酸っぱい』
朝焼けの中、航海する船が、一隻。
その甲板の上で歩いていたのは、一人の青年。
「おはようございます!」
「おう、青年! 調子はどうだい?」
「元気ですよ! そっちは?」
「絶好調だ!」
この船に乗っている人の中で一番若かったため、彼のあだ名は「青年」だった。
「さあ、飯ができたぞ!」
料理番の声が船内に響き、皆が食事場へと集まっていく。
「さ、しっかり食えよ」
「いただきまーす!」
全員の声がピタリと揃い、そして、朝食の時間が始まった。
「そういや青年、お前はどうしてこの船に乗るようになったんだ?」
「確かに、聞いたことなかったな。船なんて常に揺れているから大変だし、なかなか家族には会えないしな。どうしてだい?」
「オレなんか、家を出るときはいつも女房が『いつ帰ってくるのか』って口酸っぱく言うからさぁ、もう大変なんだぜ」
興味深そうな目でこちらを見る船員たちに、青年は恥ずかしそうに「いや」と言った。
「なんていうか……船乗りって、ロマンがあるなぁって昔から思ってて。そういうのに、憧れてたっていうか」
頬を染める彼に、船員たちは「いいじゃねえか!」と嬉しそうに叫んだ。
「そういう男好きだぜ!」
「これからも一緒に航海を楽しもうじゃねーか!」
――こうして、彼らの一日は幕を開ける。




