2020/03/03『怠惰』『現実』『川』
――がりっ。金平糖を、噛み砕いた。
しゃおり、しゃおり。舌で欠片をすり合わせれば、砂糖の甘さが口いっぱいに広がっていく。
口の中が空っぽになったら、そっと目を閉じ、耳を澄ませてみる。
エアコンの音は静かだけど、間違いなく部屋に響いている。バスが家の前の道路を通過していくときの、地面とタイヤがこすれる音。家の裏にある川のせせらぎは届いてこない。まあ、あの川は水位も低いし、流れも緩やかだ。音が小さくたって、他の音にかき消されたって、仕方がないのかもしれない。
もう一つ、金平糖を口に含む。舐めてみる。でもとげとげが邪魔で、結局噛んだ。
ため息を一つ。口は開けられないから、鼻で吐いてみた。
……やることは山積みになっている。
学校から出された大量の課題とか。
この散らかった自室の片づけとか。
入浴を済ませることとか。
親に頼まれた手伝いだとか。
他にも、いろいろ。
だけど、どれにも手を付けない。
どうしても面倒で、後回し、後回し。
周りの音に耳を傾けながら、大好きな甘いものを食べる。
今も、また一つ。
直径一センチくらいの金平糖を、口に放りこんだ。
がりっ、がりっ。
近くのスマホを手に取り、イヤホンジャックにiPhone純正のイヤホンを接続して。
しゃおり、しゃおり。
イヤホンを耳にはめて、音楽を流す。
――さあ、現実逃避の始まりだ。
2020/03/03 21:00
誤字があったので修正しました。




