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2020/03/02『未来』『教皇』『童話』
歴史の時間。今日は、ローマ教皇についてだった。
教室の一番後ろに座る彼は、あまりにつまらないからと小説を書いていた。
「……ん、これでいいかな」
彼が書いたのは、原稿用紙五枚程度の長さの、ちょっとした童話。幼い少女とその祖父による、ほっこりとするお話。
突然机の中から茶封筒を取り出すと、そこに油性ペンで宛名を書き始める彼。
童話賞に、この作品を応募する予定らしい。
「――こら、佐藤。今は国語の授業じゃないんだぞ」
見かねた先生が、彼を名指しで注意する。が、彼は全く気にしない。
「はーい、ごめんなさーいっ」
間の抜けた謝罪をして、クラスの皆を笑わせた。
――彼が未来の童話作家であることは、彼自身も含め、誰も知らない。




