2020/02/26『暴力』『薬』『人肌』
――とある魔法使いが、不思議な薬を作り上げた。
そんな知らせが入り、魔法大国ヤーンの国王は、その魔法使いのもとに駆けつけた。
「一体、どんな薬が出来たのか」
「こちらでございます」
彼が見せたのは、橙色の粉薬。
「これは、四通りの効能がございます」
「ほう、どういうことだ」
そう問いかける王様に、魔法使いは四つのコップを取り出すと、それぞれに冷たい水、人肌ぐらいの温もりを持つぬるま湯、六十度前後のお湯、熱湯を注いだ。
「薬を飲むときに使う水の温度で、効能が変わるのです」
「ほう、それは新しい」
王は目を丸くした。魔法使いはコップを手に取りながら説明する。
「冷たい水で飲めば、感情を失います」
「生きる屍が出来るのか……」
「ぬるま湯で飲めば、穏やかな心情になります」
「一番穏便そうだな」
「お湯で飲めば、愛情が湧き上がります」
「惚れ薬か」
「熱湯で飲めば、暴力的になります」
「……戦争で悪用されそうな効能だな」
王様のツッコミには何も言わず、魔法使いは「この四通りです」と話を締めくくった。
「なるほどな……とにかく、法律に基づき、城の薬品庫にこの薬を納めよ。また、この薬が悪用されたときのための、解薬剤も開発せよ。よいか?」
「分かりました、王様」
王の言葉に、魔法使いは恭しく頭を下げてそう言った。
その後、この薬を使って戦争の火種を消したり、犯罪者を改心させたりしたことにより、ヤーンはさらに発展した。
この薬はぬるま湯で飲まれることがほとんどだったため、いつしか「人肌の魔法」と呼ばれるようになったという。




