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2020/02/25『科学』『天災』『少年』

 これは、遠い遠い、未来のお話。


 科学があまりに発達しすぎて、『魔法』と呼ばれるようになった世界。

『魔法』の力を使えば空を飛ぶことも、息継ぎなしで水の中を泳ぐことも、時を自由に行き来することも、地震をなかったことにすることも、天気を変えることも思いのまま。どんなことでも、『魔法』という名の科学は叶えてみせた。

 人々は皆、幸せな生活を送っていた。


 しかしある日、予想外のことが起こった。

 この世界の天候を制御する装置が、壊れてしまったのだ。

『魔法』の呪縛を失った自然は、猛威を振るった。

 ある時は突然日照りになり、かと思えば嵐が街を襲い、(ひょう)が人を攻撃する。

 食べ物はビニールハウスの中で『魔法』を使い供給していたので食糧不足は起こらなかったが、雨による土砂崩れや氷の礫による被害は防ぎきれなかった。死者も、残念ながら現れた。天災など遠い昔のことすぎて、誰も対処法を知らなかった。

 人々は自然を恐れ、毎日をおびえながら過ごした。


 そんなある日、一人の少年が出かけようとした。

「今は外なんて、危なすぎて出ていられないよ。戻っておいで」

「いや、僕は行くって決めたんだ」

 家の人が説得しようとしても、少年は話を聞かなかった。

「おまけにうちは、忌み嫌われる家系だよ。そんな私らが家を出たら……分かってるのかい」

「分かってる。過去の遺物に囚われ続けていると言われ、遠い昔から今まで忌まわしいものとして扱われる者たちの家系、魔法使いの一族さ。それでも、偽物の『魔法』(科学)が何もできないなら、本物の魔法でなんとかするしかないでしょう?」

 少年は笑う。そしてすぐに、悲しそうな表情に変わる。

「聞こえるでしょう? 今まで押さえつけられてきた自然が怒っている声も、苦しみながら歌う精霊の声も。怒りを鎮め、苦しみから解き放つ方法を知るのは、僕たち魔法使いだけなんだよ!」

 家を飛び出す少年。その日は吹雪だった。

 彼は真っ白な世界を走り、そして歌った。遠い昔から伝わる呪文を。

 寒さに震え、けれど澄み渡った声が届くたび、雪は静まり、風も穏やかになっていく。


 家の中に閉じこもっていた人々は、何が起こったのかと窓を開け、そして歌う少年を見た。

「あの子、魔法使いの子だよ」

「忌むべき子だよ」

「でも吹雪がやむよ」

「これが本当の魔法なのか」

偽物の『魔法』(科学)とは全く違う」


 そのうち少年は歌い終わると、声を張り上げてこう言った。

「本当の魔法は自然を束縛するんじゃない。自然と対話して、心を通わせるんだよ」


 それ以降、科学の『魔法』と(いにしえ)の魔法が組み合わさり、周りの環境を思いのままに操る科学ではなく、すべての『もの』が虐げられることも束縛されることもない科学が発達していったという。

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