2020/02/18『太陽』『旅』『童話』
「どうして旅をするのかい?」
ぼくはその人に尋ねてみた。
その人は、もう何年も、いろいろな国を旅している。そして、ぼくはそれをずっと見守っていたんだ。
「おや、まさか貴方に声をかけられるなんて。光栄ですねぇ」
そう言ってその人は笑ったあと、どこか遠いところを見るような目をして、こう言った。
「……わたしは、童話が欲しいんですよ。小さな子供から楽しめるような、物語がね」
「それは、どうして?」
ぼくが聞くと、その人はにっこりと微笑む。
「わたしは幼い頃、物語に助けられたんですよ。物語は、どんなに寂しい時も、辛い時も、わたしのそばにいてくれました。そして、いつだって幸せを届けてくれたんです。それが少しばかり怖い話でも、寂しい話でも、読んだ後は心が温まるんです。本は友達だったんです。決してわたしを裏切ることがない、大切な。
――だから、そんな物語を、たくさん子供たちに見せてあげたい。そのために、わたしは世界中を旅して、童話を集めているんです」
「素敵だね」
そう言うと、その人は頬を染めた。
「わたしは物語だけでなく、その材料も集めているんですよ。世界中で起こっていることを集めて、それをもとに、童話を書きたいんです。ほら」
ぱっ、とその人が見せてくれたのは、書きかけの物語。子供たちが喜びそうな内容で、それでいて他のどの話とも似ていない、まだ誰も見たことのないもの。
「これはとても面白い。きっと、たくさんの子供たちが喜んでくれるよ」
「ありがとう、太陽さん。それでは、わたしは旅の続きを」
旅人は再び歩き始める。
童話を集め、自ら物語を紡ぐため。
2020/02/18 22:30
誤字があったので修正しました。




