2020/02/10『真実』『恋人』『理想』
「伊藤。おれと……付き合ってくれ」
勇気を出して告白した彼に、彼女は。
「――もちろん。もちろんよ、萩本君」
緩くパーマのかかった、長い黒髪を揺らして、泣き笑い。
こうして付き合うこととなった萩本直彰と、伊藤惠子。
お互い、相手に対して熱くなりすぎず、醒めすぎずの関係を持ち続ける様子に、二人はいつの間にか、理想のカップルと呼ばれるようになった。
そんなある日、事件は起こった。
「萩本君。昨日、惠子が知らない男の人と歩いてるところを見たんだけど……」
伊藤の友人から告げられた、そんな言葉。
最初は萩本も信じていなかったが、その場所を教えてもらい向かってみると、そこには確かに伊藤がいた。知らない男と談笑している彼女が。
その日から、ほんの少し、ほんの少しだけ、関係はぎくしゃくし始めた。
伊藤が声をかけても、萩本はそっけない返事しか返さなかったり。
萩本が声をかける回数が、ちょっと減ったり。
そんな、見る人が見ればようやく分かるような、気づかれにくい変化だった。
そして、そんな状態のまま、萩本は誕生日を迎えた。
「あ、ねえ、萩本君」
唐突に声をかけてきた伊藤に、怪訝そうな顔をした萩本。
「――どうした?」
「今日誕生日でしょ? だから、これ。プレゼントよ。バイト先の人にアドバイスもらいながら、萩本君に似合いそうなのを選んできたの」
萩本の手が、震えた。
「――もしかしたら、プレゼントを選んでるところを見られてて、浮気と勘違いされたかもしれないけど、そうじゃないのよ」
伊藤の言葉に、思わず心の中で「……やられた」と思った萩本。
そう、萩本が見た知らない男こそが、伊藤のバイト先の人。プレゼント選びを手伝った、ただの親切な人だったのだ。
そして、伊藤は萩本の勘違いに気づいていた。だからこその、あの言葉。
「……直彰、誕生日おめでとう」
ほんのり頬を染めて言う彼女に。
「……ありがとう、惠子」
萩本もまた、どこか恥ずかしそうにそう言ったのだった。
2020/02/10 23:19
変換ミスに気付いたため、修正しました。




