第六話
とりあえず、鳥居を山から引き抜こうとした。でも、何年もの歳月をかけて山と一体化したみたいに、抜けない。
「どないしよ……」
「もうそのまんまでええから、山ごと破壊してまえ! 」
私は拳を握って、大きく息を吸い込む。もしかしたら血が出るかも。絶対痛いよ、これ。
「やっ、やあぁあぁああっ!」
山頂から、垂直に。渾身の力で叩き付ける! 鳥居はあっけなく折れて、狐の人形は床に叩きつけた。踏んだ。気が付くと、原型が分からないほど粉々になってしまった。
襖の向こうから、形容できないほど恐ろしい悲鳴が聞こえる。私は思わず耳を塞いだ。
「山が泣いてはる……」
イヅルはむしろ別のことに気を取られたみたいで、急いで襖に駆け寄り、勢いよく開け放った。
「まっ、き、きつねは……」
「おらん。けど…………」
イヅルの足元に、真っ白くて、9本の尻尾がある狐が横たわっていた。多分これが本体なのだろう。あんなに憎かったのに、亡骸を見ていると泣きたくなるくらい悲しかった。
「えらいことになったで……ほんまにまとめて地獄逝きや」
【DEAD END】傾国の美女
「もう間に合わん、俺も、あんたも……」
へたりこむイヅルを無理やり立たせて逃げようとしたが、鍛えているわけでもない私では体力に限界があった。
初めて見た星川郷が、崩壊しつつある姿だなんて。村人たちは異変に気が付き続々と家から出てくる。ある者は「アサヒメ様の祟りや!」と恐れ、ある者は「俺の言う通りやったやろ! 星川の坊主のせいで、俺たちはみんなお陀仏や!」と、イヅルにまで呪いの言葉をかけていった。小さな子供は母の背中で泣き叫び、老人は許しを請い続けた。そこにいた誰もが、自分の死は逃れえないことを悟って行動した。
「ごめん、ごめんっ、なさい……」
私のせいだ。私だけが犠牲になれば、みんなを巻き込まずに済んだのに。イヅルだって、死ななかったのに。ロロナちゃんは大丈夫かな。この村にさえ来ていなければ、きっと彼女は元気なはず。あの子の願いが叶えばいいなあ。私の代わりに、幸せになってほしい。こんなこと言っていいのかな?
呆然としたままのイヅルを抱きしめ、もうそこまで迫っている土砂に飲み込まれる前に、私は彼に、サヨナラのキスをした。