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第二話

 制服姿の女子生徒二人が、学園外の森を疾走していた。一人は小日向ロロナという。小柄だがすばしっこく、もう一人の女子生徒、蘇芳麻姫は彼女について行くのに必死だった。もうすこしゆっくり走ってほしいと麻姫がロロナに言いかけたまさにそのとき。二人の後方から、轟音がこだました。


蘇芳「なんや今めっちゃすごい音したやん」


小日「あっちは、男子寮の方ですね、確か」


 爆発音ののち、誰かが男子寮の方から、走って近づいてきていた。男性が二人。とはいえ、一方がなぜかもう一方の男性をお姫様だっこしていた。ちなみに抱えられている方の男性の顔色はけっこう悪い。抱えている方の男性はすごく意気揚々と鼻歌を歌っていた。


蘇芳「きゃーっ! なんなんやあれ」(麻姫は、思わず腰を抜かし、地べたに尻餅をついてしまう)


小日「こっちに向かってきてますね。きゃー、なんてね」


 叫ばれてなお、男一人を軽々抱える大柄の男は鼻歌を止めなかった。


***

 上機嫌に鼻歌を奏でる彼は猿飛斬という。猿飛に悠々抱えられている男子は西崎理央。西崎は自分たち同様、夜のこんな時間に出歩いている二人に驚きを隠せなかった。


西崎「あれっ、きみたち、あれ。あの、あれだよね、あの。えっと、きみたち女子寮の……」(女子二人を前に慌てた調子の西崎)


 猿飛の脳天気っぷりと、西崎の過度の慌てっぷりにぽかーんと放心状態の麻姫。ロロナは、この二人とはあまり取り合いたくないようだ。なかなか、この男二人と目を合わそうとしない。


小日「あぁ、どうしよっか、蘇芳先輩。男子来ちゃいましたけど」


猿飛「あらん? あなたたち、だぁれ?」


蘇芳「なんやあれ? 新種の下手もんかいな」(麻姫は猿飛を指さして)


猿飛「あらやだ、失礼な砂利ガールねぇ。失礼しちゃう!」


西崎「先輩、砂利ガールはだめです、砂利ガールは。あと――」(やけにまじめな顔で)「いいかげん降ろしてください。これ以上抱えていられたら、僕の男子としてのプライドに傷が入ります!」


猿飛「若いもんが遠慮しないの」


西崎「うぉー、一歳しか違わないのにぃ!」


猿飛「西崎くんって、よく見ると、けっこうかわいい顔してるわよねぇ」


西崎「せんぱい……せんぱい先輩先輩! 先輩はどれだけ僕の男としてのプライドを折ってくれるんですか、まったくもう……」


勝手に盛り上がるお釜と少年に対し、


蘇芳「これもう逃げた方がええんちゃうか?」


小日「そ、そうですね。ちょっと距離を」


西崎「先輩! 距離取られちゃったじゃないですか! あっ、ちょっとまってー!」(距離を取っていく女子二人を見て手を伸ばす。しかし西崎は猿飛に抱えられたままなので、それ以上のことはできない)


西崎「先輩先輩! 距離取られてますけど」


猿飛「あなたたちぃ、見たところ、女子寮の生徒さんたちみたいね。なにしてるの? こんなところで」


蘇芳「あんたに言う義理あらしまへん!」(きっぱりと)


小日「ですよね」(冷め切った目で)


猿飛「わたしたちわぁ、ただ星を見に行こうとしてるだけよ。ねぇー西崎クゥ~ン」


西崎「エエソウデスネー」(言葉とは裏腹に、死んだ目つきをしている)


小日「ねえ、蘇芳先輩、こんな二人なんかほっといて、さっさと行きましょっ」


蘇芳「せやねー」


(二人は顔を見合わせすぐに意気投合)


猿飛「あなたたち、一体今からどこに行きたいの?」


蘇芳「あんたにはどうでもいいやろ、ほい、なら」


小日「ですよね」


猿飛「この時間外は危ないらしいわよぉ~。警備が回ってくるらしいし」


 猿飛の忠言に、女子二人は足を止めた。


蘇芳「無視してええんかな?」


小日「うーん……」


猿飛「あなたたちはおそらく、西門を狙っているんでしょうけど、西門はやっかいな警備が年がら年中常駐してるのよ」


小日「……無視、しよ」(ロロナは一人決断し、再び麻姫とともに男子二人から離れていく)


 それは、猿飛が女子二人を呼び止めようとしたときだった。


女子二人、男子二人、それぞれの前にどこからか、ころころと円形の球体の塊が転がってきた。猿飛はそれが上から振ってきたものだと瞬時にわかり、ロロナも、若干遅れてその事実に気づいた。


 麻姫はとっさにロロナに抱きついた。


小日「落ち着いてください」(鉄の塊を前に、麻姫に一言)

小日「なんなんでしょうか、これは。ちょっとあやしいですが」


 ロロナは、鉄の塊にすぐには近づかなかった。


小日「麻姫先輩、すこし後ろに下がっていてください」


 麻姫を下がらせ、おそるおそる慎重に、鉄の塊に顔を近づけた。一見するとただの鉄の球であった。しかしロロナは、安易には触らなかった。


小日「触らぬ神に祟りなしって、ちょっと違うか」


 ロロナは鉄の球を結局無視しきびすを返した。



 一方、男子二人の局面。猿飛は依然西崎を抱えたまま、その場から飛びすさった。


西崎「先輩、そろそろいい加減、おろおろ降ろして……。ていうか降ろせ!」


 そこでやっと、猿飛は西崎を地面に降ろした。

 猿飛は、鉄の塊の様子をじっと見つめていた。鉄の塊を警戒していたのである。一方の西崎は、


「あれ、おとしものかな?」


 と何の疑いもなく、その塊に近づいてつい触れてしまた。


 西崎が持ち上げた鉄の球から、急にブザーのような音が鳴り出した。ビービーという鋭い音が、西崎だけでなく猿飛の耳にも届いた。


 西崎は慌ててその球を取り落としそのまま尻餅をついた。


 一方の猿飛は、その球をずっと見ていた。鉄の球が赤い光を帯び始めた。そこからうっすらとデジタル表示の数字が浮かび上がってきた。


 00.10とあった。


 猿飛がはっとしたときには、00.09になっていた。それが00.00になったときなにが起こるか分からないほど、猿飛は鈍くはない。


猿飛「西崎くん、失礼しまーす!」


 ばふっ。


 再び西崎の腹部に手を潜り込ませ俵担ぎをして、その場から大きく跳躍。鉄の球から一定の距離を取り、そのまま脱兎のごとく走り出した。


***

 小日向ロロナと蘇芳麻姫の後方からからは、ブザー音が鳴り響いていた。そして、森の奥へと逃げていこうとする二人に、ロロナは、

「ちょっと、どういうことなんですか!?」

 と、二人を追おうとしたが、行く先には、ブザー音をならし、さらには赤く光る球体が落ちていた。


 あれは……まずいよね、常識的に。


 ロロナは本能的に回れ右をし、麻姫とともに男子二人とは逆方向に走っていった。


 それからまもなくして――


 二人の背後から、強い光が発せられた。その光は一気に二人の視界を遮った。


蘇芳「なんなんやこれ!」


 あまりのまぶしさに、麻姫は目をつぶってしまった。


 ――turning point 2――


「え? なんなんですか!? あれは!」


 暗室の中、煌々と『外』の様子を映すスクリーンにあなたは絶叫しました。そこには、激しい爆風に巻き込まれる男女四人の姿が映っていました。


「おちついてくれ、○○くん。新人研修中にサプライズはつきものだ」


 あなたととは対照的に、本学学生が爆風に巻き込まれようと全く動じない彼は西京春繁(さいきょうはるしげ)。フルール友和学園普通科の総長でありました。つまるところ、普通科の最高権力者です。室内であるといいますのに、この男、サングラスをかけ、高級感あふれる革張りのチェアーにふんぞり返っておりました。


「でも、待ってください、どうして、学園の生徒をこんな目に遭わせるんですか! 私には到底理解できません」


「ふふふ、理解できないことを理解すること、これこそ新人研修の本義だろ? 違うか?」


「さようでございます」


 答えたのは、あなたではなく、西京総長のそばに侍る書記の女性でした。暗室でもはっきりと分かるほどの美貌の持ち主でしたが、表情というものが全くありませんでした。


「ここはだな、○○くん、真の学校教育を探求する場所だ。そんじょそこらの学校基準で考えてもらっては困るんだ」


「生徒の人権はどうするんですか! こんな危険な目に遭わせて、生徒の人権どころか生命が危険にさらされる!」


「威勢のいいのはいいことだ。しかしだな、その正義感がいつまで持つか」


「……どういう、ことです?」


「○○くん。きみは、さっきの晩餐会、カレーを出しただろ、この四人に」

 西京はスクリーンを指さした。


「まさか、あのカレーになにかしたんですか!?」


「察しの通りだよ。きみが出した、あのカレーを食べたからこそ、彼ら彼女らは学園を抜けだしたわけだ」


「そんな……」


「きみも、この実験の加担者なのだよ。催眠から覚めた生徒が、どんな反応を示すかというね。ただ、被験者の四人が四人とも同じ行動を取るというのは面白くない。人が群れるのは嫌いなんだ。一人一人の反応をじっくりと見ていきたい。だからあえてだ。爆破という強硬手段に出たのはな」


 あなたは、学園の生徒を実験用のモルモット程度にしか見ない総長に怒りを感じましたが、あなた自身もこの実験の加担者なのです。自分の行為が結果として学生四人を爆破に巻き込んでしまったのです。総長に、強くは反論できませんでした。


「○○くん。別に罪悪感は持つ必要はないんだ。これが、わがフルール友和学園普通科の教育方針なのだからな。まあ、この画面で四人の様子を確認するといいだろう。それぞれに、監視員をつけている。言ってみれば、カメラマンだ」


 西京総長は、自身がやっていることに全く悪びれる様子はありませんでした。対してあなたは、気後れ気味に、四分割された画面に目をやります。

 さて、どの画面を中心に見ていこうか……


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