第0話 Prologue
まだ夜も更けぬ宵の頃。人里離れた山中に明かりが灯る。私立フルール友和学園の光だった。学園と森林は渾然一体としていて、両者を区切る隔壁のようなものは存在しなかった。森林という広大な敷地に、学園の各施設がひっそりと建っていた。
この時間、校舎の明かりは一部の教室を除きほとんど消えていた。森を切り開いて作ったグラウンドにも人影は見られない。正課も部活も終わっていた。学園の寮生たちは、男子寮、女子寮に挟まれる形で存在する食堂に集合していた。性別、学年関係なしに、フルール友和学園普通科の寮生たちは、思い思いの席に座り、今日の夕食が運ばれてくるのを待っていた。
今日の夕食はカレーだった。
――turning point――
「これも、新人研修の一つか……」
配膳台に並んだ大量のカレーを前にあなたはつぶやきました。百はゆうにあり、これらすべてを学生のもとに運ばねばならないと思うと億劫でした。
学生に取りに来させるべきじゃないだろうか……
職員が献立のすべてを配膳する、この学園のシステムにあなたは釈然としませんでした。
まして、自分は新人研修中といえど、配属先は事務室と聞いている。なぜ、食堂の手伝いをしなければならないのだろうか……
腕組みし、配膳を渋っていると、
「○○(ここにキミの名前を入れよう!)さん、ちょっといいかしら」
この食堂で働く、ある女性に話しかけられました。彼女は寮生たちから「ママ」と呼び親しまれている、感じのいいおばちゃんです。
「この荷台に載っているカレーは、このリストの四人に届けてちょうだい。頼めるかしら」
中途採用で今月から職員(仮)になったばかりのあなたに拒否権はありませんでした。
あなたは、顔写真と名前の載った紙を素直に受け取りました。男の子二人と女の子二人です。四人とも寮生の子たちです。
「わかりました。でも、この四人はどこの席に?」
「麻姫ちゃんとロロナちゃんは、右奥の窓際席に今日も一緒かなぁー。それからこの西崎くんと猿飛くんは、左奥の入り口付近みたいね。わかるかしら?」
「とりあえず、行ってみます」
カレー皿が四つ載った荷台を押し、あなたは調理場を出ました。