9話
この回は短いです。
リナリアは驚きを隠せずに呆然としていた。シェルタはにこりと笑うとこう言った。
<姫。名を教えておくれ>
「…私は。リナリアというわ。リナリア・ヴェルナード」
<リナリアか。わかった、今度からリリィと呼ぼう>
何故か自分の愛称を呼ばれてリナリアは余計に混乱する。シェルタは苦笑しながらふわりと空中に浮かび上がった。
<ではな、リリィ。また来る故>
シェルタはその言葉を残して姿を消してしまう。その場から動けないリナリアだった。
リナリアが我に返り自室に戻るとルミネが待ち構えていた。
「ああ、殿下。よかった。戻ってこられたんですね」
ほっとした様子でリナリアに駆け寄る。
「どうしたの。ルミネ?」
リナリアが問いかけるとルミネはいえと目線を横に逸らした。
「いえ。皇太子殿下がお呼びです。執務室にまで来てほしいとの事でした」
「兄上が?」
「はい。リナリア様にお話したい事があるそうです」
リナリアはまたかと思う。つい昨日にエドワードに寝室で襲われかけたところだ。もしかしたら、兄は勘づいたのかもしれない。見かけは穏やかそうに見えるが兄はなかなか勘が鋭いのだ。
「わかったわ。兄上の所にまで行きます。ルミネは知らせに行ってくれる?」
「かしこまりました。皇太子殿下にお伝えしてきます」
ルミネは頭を下げるとドアを開けて部屋を出ていく。リナリアはそれを見送りながら兄の話したい事は何だろうと考えたのだった。
ルミネが戻ってきた後、リナリアは一人で執務室に向かった。廊下を歩いてしばらくすると執務室が見えてくる。
ドアをノックして自分の名を告げた。中から聞き覚えのある声がして返事が聞こえた。リナリアは自分で両脇に控えた騎士二人に会釈をしながらドアを開ける。
「あの。兄上、お話があるとの事で来たのですけど」
「ああ、リナリアか。人払いはしてあるから入るといい」
兄はそう言いながら立ち上がった。リナリアはドアを閉めて応接用に置いてあるソファに歩いて近寄る。
「座りなさい。立ったままで話すのも疲れるだろう」
「わかりました」
リナリアは頷きながらソファに座った。兄も同じようにする。二人してしばらく黙りこくっていた。
リナリアが痺れを切らせて話しかけようとした時に兄が口を開く。
「…リナリア。お前の結婚式の日取りが決まった。後、スルガ国から賓客が来る事が向こうから知らせてきてな。何でも現国王の弟王子が妃と一緒に名代で来るそうだ」
「それは本当ですか?」
「ああ、本当だ。だからリナリア。腹は括っておいてほしい」
結婚式の日取りはいいとしてあのスルガ国から国王の弟とその妃が来賓として来ると聞いてリナリアは驚きを隠せなかった。