7話
エドワードはリナリアの事を思い出していた。柔らかな黄金の髪に淡い緑色の瞳はいつだって惹き付けられる。彼女が幼い頃から成長を見守ってきた。
まさか、自分が結婚相手に選ばれるとは思わなかったが。確かにリナリアは可愛い。けど、八歳も上の自分では釣り合わないと思う。今年で二十六歳にエドワードはなる。妹のメアリアンで六歳下で二十歳になっていた。
(リリィと果たして結婚できるかな?)
苦笑しながらそう考えた。それを冷たく睨むサミュエルに困りながらも仕事を始めたのだった。
エドワードが執務を一通り終えるとリナリアが執務室にやってきた。髪をきちんとシニヨンにしてまとめて薄化粧をしている。服も足首までの丈の淡い緑色のシンプルなワンピースを着ていた。
それに見とれながらもエドワードはリナリアに近づく。
「やあ、殿下。本日も麗しゅう…」
「エドワード様。ごきげんよう。それより今日は兄上に用がありまして。ちょっとよろしいですか?」
リナリアは挨拶もそこそこにサミュエルの座る机に向かっていく。エドワードはそれを呆けた顔で眺めた。何故か、リナリアが冷たく素っ気ない。
驚きのあまり固まる彼を置いてリナリアとサミュエルは続き部屋に入っていった。
あれから、一時間が経ってやっとリナリアとサミュエルは続き部屋から出てきた。何だか、二人とも様子が変である。どうしたのかと尋ねたいが雰囲気がそれを許さない。
「エドワード。後で話がある。リナリアはすまないが部屋に戻ってくれ」
「わかりました。では失礼します」
リナリアは頷いて執務室を出ていく。エドワードは残念と思わずにいられなかった。
サミュエルは壁際に控えていた侍従にワインとグラスを持ってくるように言うと立ち上がった。エドワードにもソファに座るように勧める。二人して座るとサミュエルは神妙な顔でエドワードを見据えた。
「エド。単刀直入に言わせてもらうが。リナリアと結婚式を早くすませたいと思わないか?」
「…え。殿下、何をおっしゃっているんですか」
「言葉通りの意味だ。リナリアがな、エドに襲われかけたと言ってきてな。俺なりに考えた。とりあえず、あいつも良い年だしな。結婚を早めても良いのではと思った」
あまりの急展開にエドワードの頭は追いついていなかった。サミュエルは眉間にしわを寄せながらも言った。
「俺だってリナリアを嫁に出すのは本当は嫌だ。けど、あいつの幸せを考えたらエドワードと早めに結ばれた方が良いと思えた」
「そうか。だが、エル。お前がそういう兄貴らしい事を言うとはな。珍しいこともあったもんだ」
エドワードがサミュエルを愛称で呼ぶと二人して苦笑しあった。
「だが、俺だってエルの気持ちはわかる。何せ、可愛い妹をお前に嫁がせたんだからな」
「そうだったな。お前の妹を盗っておいてリナリアを盗られるのは嫌だと言うのは無茶が過ぎる。反省はするよ」
「…まあ、反省してくれるんだったらリリィに手を出しても怒るなよ」
「わかったよ。そこまで口を挟む気はない」
二人して軽口を叩きあっていたら侍従がワインとグラスをお盆に乗せて持ってきた。礼を言ってからコルクを開ける。ぽんと小気味いい音を立てながらワインをグラスに注いだ。芳醇な香りを楽しみながら酌み交わす。サミュエルが一口飲むとエドワードも続けて飲んだ。
「いやあ、酒を飲むのは久方ぶりだな」
「そうだな。今日は酔うまで飲むか」
二人でワインを片手に語らうのだった。