6話
ベッドにてリナリアはエドワードと昼寝をしていた。結ってあった髪をほどいたので枕に彼女の黄金の色が広がる。エドワードは髪を撫でてきた。その手つきはあくまで優しい。うとうとしながらもその感覚を享受する。
「リリィ。たまにはこういうのも良いな」
「そうですね。エドワード様も眠たくないの?」
「俺は大して眠くない。元々、体力はある方なんでね」
そう言いながらリナリアのうなじをそっと撫でた。何とも言えない感覚が背中を走る。痺れるような何かにリナリアは体を震わせた。
エドワードは満足そうにしながら彼女の額にキスをした。髪を撫でながらもその表情はとろけそうなものだった。
「リリィ。結婚まで待ちきれない」
「…エド様。あまり恥ずかしい事は言わないでください」
「これ以上は言わないよ。さすがに時間切れのようだから」
エドワードは起き上がってベッドから降りた。その直後に寝室のドアをノックする音が響く。
「リナリア様。おられますか?」
声をかけてきたのはルミネだった。リナリアはほどけた髪を手で直しながら返事をする。
「ええ。いるわ」
「もう、夕刻に近い頃合いです。殿下が昼寝にしたって少し遅すぎるとお怒りですよ」
ルミネの言葉にリナリアとエドワードは顔を見合わせる。まさか、兄のサミュエルが昼寝していた事に気づいていたとは。
エドワードは襟元を直して乱れた髪も同様にしてからドアに歩いていく。リナリアも胸元を直してから彼についていった。
ドアが開けられるとルミネが心配そうにしながら待ち構えていた。
「リナリア様。それにエドワード様。早めに戻られませんと殿下が大層お怒りでしたよ」
「そうか。ルミネには迷惑をかけてしまったな。すまない、今から殿下の許に戻るよ」
エドワードは謝りながらいうとリナリアの頭を一撫でしてから部屋を出ていった。それをルミネと二人で見送ったのだった。
あれから、夕刻になりリナリアはルミネに言ってほどけてしまった髪を結い直してもらった。再び、アップにしてから夕食をとる。自室にて食べた。
今日の夕食は白パンと野菜のスープに鹿肉のステーキなどだ。どれもあっさりとした味付けでリナリア好みになっている。
「それにしたって殿下。エドワード様と寝室で何をなさっていたのですか?」
ルミネが心配そうに聞いてきた。リナリアは桃のパンチを飲みながら答える。
「何をって言われても。昼寝をしていただけよ」
「…それにしてはお二人の様子が変と言いますか」
「変ってどこが?」
「その。申し上げにくいのですけど。艶っぽいと言いますか。ちょうど情事の後のような雰囲気というか…」
情事と聞いてリナリアは桃のパンチを危うく吹き出しそうになった。盛大にむせてしまう。
「大丈夫ですか?!」
「けほっ。大丈夫よ。ちょっと驚いてしまって」
リナリアがむせた原因が自身の言葉だという事には気づかないルミネだったが。その後、リナリアは彼女の天然な所を怖いと思ったのだった。
リナリアはまんじりとしない中で一晩を過ごした。結婚まで一年を切った今、エドワードと寝室を共にする事が現実のものになろうとしている。昼寝していた時、心臓がうるさくてどうにかなってしまいそうだった。エドワードの穏やかな瞳と温かな手にこれまでにないくらい安心していた自分がいる。それを思い出すと顔に熱が集まった。
(エドワード様はどういうつもりだったのかしら)
そんな事を考えながら時間は過ぎていった。
太陽の光が照らす中でリナリアは目を覚ました。ルミネはまだ来ていない。だが、リナリアは鈴のような音が頭の中に響き、違和感を感じた。ベッドから降りて窓に様子を見に行く。
「…へえ。やっぱり、大公家の姫君は勘が鋭いのですね」
窓ではなく上から声がする。リナリアが天井を見上げるとそこから黒い衣装を身に纏った人物が舞い降りてきた。
「誰なの?」
「…わたくしは大公家に昔から仕える影にございます。名をイルアと申します」
「イルア。父様から聞いた事があるわ」
リナリアが言うとイルアと名乗った影は頭からすっぽりと被った布を外した。その中から現れたのは黒い髪と瞳の美しい女性だった。リナリアは珍しいその色に驚きを隠せなかった。