13話
リナリアはその後湯浴みをして眠りについた。
今日は色々とあった日だった。おかげで夢も見ずにぐっすりと眠れたが。次に目を覚ました時にはもうカーテンの隙間から光が漏れていた。ドアをノックする音が聞こえて返事をする。ユルシュとルミネが入ってきた。
「……姫様。おはようございます」
「おはよう。ふう。もう朝なのね」
リナリアがいうとルミネがベッドにやってくる。そしてシーツと毛布を剥がす。ブルルッと体が寒さのせいで縮み上がった。
「……うう。寒い。ルミネ。いきなりされると驚くでしょ」
「それはすみません。でもぼうっとしている暇はないですよ」
ルミネはそう言ってベッドからリナリアを追い出した。仕方ないので顔を洗いに洗面所に行く。タオルは既に昨日にユルシュが用意してくれていた。それを見て取ると蛇口をひねる。きゅっと音がして冷水が出た。実はヴェルナード公国では上水道と下水道が完備されていた。今から50年前くらいに他国で普及していたのを当時の大公が取り入れさせていたのだ。そのおかげで何度も水汲みに行かずとも使えるようになった。何度か顔を洗い、タオルで水気を拭いた。歯ブラシがガラス製の容器にある。歯磨き粉をブラシにつけた。そうした上でシャコシャコと歯磨きを始めた。無心で磨いていく。十数分くらいそうしたら陶器のコップに水を入れて口をゆすいだ。
ゆすいだ後、リナリアは同じく水気をタオルで拭い、後片付けをして洗面所を出た。ルミネとユルシュは既に今日着るドレスを決めている。青い色でタートルネックのドレスだ。長袖で今の季節にはちょうど良い。銀製のペンダントをつけて髪もアシアナネットで纏めてシニヨン風にした。お化粧は派手ではない上品な感じに仕上げてくれた。リナリアは身支度を終えると自室の応接室に行く。そうしてメイドが持ってきた朝食を食べる。今日は食べやすいようにと白パンと果実水、サラダとスープ、ふわふわのオムレツだった。
「……うん。あっさりしていて美味しいわ」
「ようございました。おかわりがあったら言ってくださいね」
「ええ」
頷くとリナリアは白パンをちぎってスープにつけた。そしてそれを口に入れる。コンソメの野菜スープなので食べやすい。そうして朝食もすませると騎士団長のミラー氏にお礼の手紙を書いた。それをユルシュに託す。ルミネが後片付けを終えると部屋を出ていく。一人になるとリナリアはいつもの癖で眉間を揉んだ。ふうと息をついた。しばらくはソファに座って目を閉じたのだった。
ユルシュが来客の旨を伝えに来たのは手紙を託してから一時間後のことであった。目を開けるとリナリアは自分がうたた寝していた事に気づく。慌てて鏡台に行き、髪や顔などに乱れがないかを確認する。大丈夫な事に気付いてホッとした。そうした上で部屋に入ってきたユルシュに声をかけた。
「……ユルシュ。来客との事だけど。どなたかしら」
「……それが。エドワード様とミラー騎士団長がいらしています」
「エドワード様と騎士団長が?」
「はい。いかがいたしましょうか」
「そうね。ご入用だったら大変だし。入って頂いたらいいわ」
「かしこまりました」
ユルシュは頷くと一旦部屋を出ていく。そうして本当にエドワードとミラー氏が入ってきた。エドワードは相変わらずの感じだが。ミラー氏はいかにも強面でちょっと近寄りがたい。それでもせっかく来てくれたのだ。リナリアは戻ってきたルミネにお茶とお菓子を用意するように言う。ルミネは疲れているだろうに手早くお茶とお菓子を準備してくれる。エドワードの好みは知っているが。ミラー氏の場合はわからない。無難なアールグレイの紅茶とクルミ入りの甘さ控えめのクッキーをルミネは用意して二人の前に置く。エドワードとミラー氏は礼を言ってくれた。
「……公女殿下。今日はいきなり来てしまい、申し訳ありません。ただ、私めに護身術を習いたいと手紙にありました。ただ、私一人では判断がつきませぬ故。婚約者のエドワード卿にも相談して一緒に来ていただきました」
「……そうでしたか。私もいきなりお願いしてしまい、ごめんなさい。ミラー団長やエドワード卿も驚かれたでしょう」
「公女殿下が謝罪なさる必要はないですぞ。ただ、護身術を習っている途中で怪我でもあってはいけませんからな。なのでエドワード卿と一緒であれば、お教えしても良いとその。大公陛下の仰せです」
ミラー氏の言葉に驚く。相変わらず、過保護な父に呆れもする。エドワードも苦笑していた。リナリアはやれやれと同じように苦笑いしたのだった。




