最終話:2150
――2150年 12月24日
“エデン”の郊外、一人の青年が二体のサイボーグに囲まれていた。
「国際指名手配の貴様が、こんなところに出てくるとはな。ええ? コウガ・ヤマモトよ?」
一体が、銃を突きつける。その銃口の先に、成長したコウガの姿があった。
「まあ……帰巣本能っていうのかな。それに、逢いたい人もいるし」
ざんばらのくせっ毛をかきながら、コウガは答える。間延びした声は、緊張感がない。
「とにかくさ、そこをどいてもらえるとありがたいんだけど……その先に用があるから」
「バカかてめえ、『はいどうぞ』とでもいうと思うか!」
発砲。銃声が響き硝煙が立ち上る。が、銃弾が届いたその先にコウガの姿はない。
「じゃあしょうがないな」
コウガの声が背後からした。
「貴様、いつの間に――」
『小太刀』
コウガの、鉄製の左手が変化し赤い刃が伸びる。それはかつて、彼が受け継いだ『家族』の絆。
紅の光が、空に放物線を描いた。かと思うと次の瞬間には、サイボーグ達の首が斬りおとされた。
「な、なぜ人間が電磁カッターなんぞ……」
落ちた首がそういったものの、すぐに沈黙した。
「さて、時間食っちゃったな。いそがなきゃ」
電磁カッターをしまい、コウガは小走りに目的地を目指した。
12月とは思えない暖かな風が、草木を揺らした。
都市を見下ろす小高い丘。その頂きに、一つの墓石が建てられていた。そこに刻まれた一つの名前。
『リーシュ・ニコラウス』
半年前、ようやく彼の地を踏んだコウガが建てたものだ。
ひっそりと佇むリーシュの墓。しかしそこに亡骸はなく、墓標のみが存在する。
その前に、コウガは立った。
「……君は人類にとっては憎むべき敵であり、忌まわしき存在だった」
夕闇が、コウガの顔を照らし出す。
「だけど僕にとっては、愛すべき友であり、家族だった。あのとき君がいなければ、僕はいない。僕がここに立っている、その証は君がくれたんだリーシュ」
目を瞑り、思いを馳せる。
幼かった日々を。コウガを見守る眼差し、時折見せるかすかな笑みが心地よかった。
いま、その姿を見ることはできない。だけど、
「ここに君は、確かに、いる」
そういって左腕を撫ぜた。
懐から小さな木箱を取り出す。コウガは跪き、墓前に供えた。
「随分遠回りしちゃったよ。ここに至るまでに、ね」
蓋を開ければ、風に揺られて流れ出す音色。『クリスマス・キャロル』の旋律を奏でる。
「10年目だよ、リーシュ。メリークリスマス」
そっと、囁いた。
〜Fin〜
読んでいただき、ありがとう御座います。
サイボーグと少年の話、という原型は以前から暖めていたものです。それに無理やり「クリスマス」を絡めたものだからいまいちクリスマスらしい雰囲気がでませんで、申し訳ないです。一応、「ギフト」を話の中に組み込んでみたのですが分かりづらかったかもしれません・・・重ね重ねご容赦を。
温かい話かどうか分かりませんが、少しでもなにかを感じ取っていただければ幸いです。