『テンプレ』小説を書くのは本当に簡単なのか? その二
先日投稿した“『テンプレ』小説は本当に書きやすいのか?”が思ったよりも反響があったため(たった3日で、3年続けている拙作の評価ポイントを追い抜きました。なぜか泣きたくなりました)、調子に乗って続きを書いてみました。
以前の考察では、ストーリーありきでテンプレ作品の難しさを解説してみたが、今回はその逆。
登場人物の設定をしっかりと決めた上で、ストーリーを考えてみることにしよう。
……ちなみに、今回もかなり長いです。
実はこの考察、一歩目でかなり悩んでしまった。
皆さま、テンプレものの小説と聞いて、どんなストーリーなのかは大よそ想像はつくと思われるが、「どんなキャラが出てくるのか」はすぐにイメージできないのではないだろうか。
要するに、「人物のテンプレ」ってどんなものなんだろう、と。
とにかく、考えてみよう。まずは主人公だ。
設定、設定……うーむ、何から決めたらいいものやら。
とにかく異世界に行き、最強になって無双するのが目的なんだから、まずは『能力』を考えないと始まらないよね。よーし、王道のチート能力をこれでもかとブチ込んでみるぞ!!
『創造魔法』――思い描いたものを何でも創れる! 最強の剣だってちょちょいのちょいですぐ手元に!!
『レベル99』――魔王だって神様だって、怖いものなし! グーパンチで全部吹っ飛ばしちゃえ!!
『無限収納』――いわゆる○次元ポケットだね。どんな物でもいくらでも収納できるよ! 食べ物をたくさん入れれば飢える心配なんてないし、いっそ家ごと収納しちゃえば、長旅でも野宿しなくて済む!!
取り敢えずチート能力はこれくらいでいいかな。旅の途中で新しい能力を編み出してもいいんだし、カッコイイのが思いついたら追加していこう。
次に外見――は、どうでもいいか。
別にイケメンだろうがブサイクだろうが、ヒロインが惚れることに変わりはないんだし。
中肉中背のごく普通の男子高校生ってところでいいよね。
あとは性格かな。
うーん……主人公で最強なんだし、どんなことにも動じないクールなキャラじゃないとね!!
ストーリーの途中で挫折して落ち込む姿なんて書きたくないしね。
――さあ、主人公のキャラ設定、これで終了だ。
ヒロインの設定も決めておきたいけど、ひとまずはいいか。
主人公の活躍に応じて設定を考えていけばいい。ピンチのところを助けられて一目惚れって展開は外せないから、奴隷とか女騎士とか、お忍びの王女様なんてのもいいね。
……色々ツッコミ所はあると思う。
私自身、頭の中を真っ白にして勢いで作ってみたので、かなり痛々しい事になっているのは自覚している。
とにかく、この主人公の設定で書き始めてみることにした。
1. 普通の高校生がトラックにはねられました。
ここはさっくり終わらせとこう。クラスメートとか、家族の描写は……いらないか。どうせすぐに異世界に行くんだし、書いたところで後々登場もしないんだから。
2. 神様からチートをもらいました。
能力の確認は転生した後でもできるし、ここもさっくりと済ませておこう。神様だって後々登場することは……たぶん、ないよね?
3. 転生しました。赤ん坊からだー!!
ようやく転生できたよ。ステータスを確認して、使える魔法や能力を見ておこうね。よーし、主人公の第二の人生、思う存分満喫させてあげよう!!
4. 特訓して強くなる!!
赤ちゃんの時点で意識はあるから、とにかく魔法の特訓だ! 5歳くらいには全属性の魔法を使いこなせるくらいになればいいかな?
5. ギルドに行って冒険者登録!!
大人になるまで待ちきれないし、10歳くらいでギルドに登録しておこう。最初はFランクから……すぐにでもSランクまでのし上がってやるからな!
Cランクくらいの冒険者が絡んできたけれど、今の主人公なら本気を出すまでもないね。軽くいなしてやったら尻尾巻いて逃げ出したよ。
6. 成人(15歳くらい?)しました! さあ、本格的に旅をはじめよう!!
ギルドで、凶悪なドラゴン退治の依頼を受けたよ。Aランク冒険者が束になっても勝てない強敵だけど、Sランク以上の実力を持った主人公なら楽勝。創造魔法で作った最強の剣で一刀両断だ!!
7. 旅の途中、運命の出会い……
気ままなひとり旅を続ける途中、山賊に襲われる女の子の姿が! もちろん颯爽と助け出して、女の子を介抱してあげる。
(ここは逃げてきた奴隷としておこうかな)行くあての無い女の子は、主人公についていきたいとお願いしてくる。もちろんOKして、次の町へ。
町に着いたらこの子に綺麗な服を着せてあげて、戦闘スキルがあれば武器を持たせてサポートさせるのもいいかも?
8. 旅は続く……
と、ここまでざっと書いてみたのだが、驚くほどに悩むことなくサクサクと進めることができた。最初からある程度ストーリーの骨組みができている、これが『テンプレ』の魅力であり利点と言ってもいいだろう。
テンプレ通り、主人公は思うままに無双できているし、かわいいヒロインだって完備。今後の旅で次々ヒロインを登場させて、ハーレム展開に発展させることも容易だろう。
どこに出しても恥ずかしくない、立派なテンプレ小説の第一歩を踏み出せたぞ!!
――さあ、問題はここからだ。
ここまで読み進めていただいた読者様の感想は、言われずとも分かる。
「薄っぺらい」だ。
いや、多くの人が使うありきたりな設定なんだし、ストーリーが薄っぺらいのは仕方ないのでは…………じゃないのだ。
薄っぺらいのはキャラの方だ。
書きながら思ったのだが、こんな好き勝手な人生を歩んできている主人公の頭の中が、私自身まるで想像できないのである。
ここで、チートものを書こうとされている方、あるいは既に執筆されている方に、ひとつお願いがある。
実際に執筆する必要はないし、頭の中に思い浮かべるだけで結構なのだが……1話完結でいいので、「チートを抜いた主人公に一日だけ休日をあげてみよう」。
これまでのストーリー展開は一切無視で、ものすごく簡単な内容でいい。
海へ釣りに出かけてもいいし、料理をしたっていい。筋トレだろうが昼寝だろうが何だっていい。
ただし条件として「他キャラと絡ませない」こと(お店の人や通行人はOK)。よってひとりで買い物に行くのはいいが、ヒロインとのデートは禁止だ。
ここで主人公を動かせるかどうかが、キャラ設定が薄っぺらいかどうかを分ける境目である。
実は、さっき考えたテンプレ主人公の場合だと……何もできないのだ。
理由はとっても簡単で、主人公に『人格』の設定がなかったから。
チートの無い主人公は、とりあえずクールな性格で決めておいた、イケメンかブサイクかも分からない普通の男子高校生なのだから。それ以外の設定などない。
これはもはや、人間というよりはチート設定を貼り付けただけの『のっぺらぼう』である。
逆に、何かしらの行動ができる主人公はこれには含まれない。
仮に料理をするのであれば、それだけで「料理が好き・得意である」というひとつの個性を獲得している。ここから「どうして料理が好きなのか?」と深読みしていけば、次々と主人公の人格は人間味を帯びていくのだ。
例えば、“料理をする→転生前も料理が得意だった→どうして?→「美味しい」と言って家族が喜ぶ顔が好きだったから頑張って練習した”。
別にこの描写を実際に小説内に入れる必要はない。作者の中で、主人公は「そういう人間なんだ」と理解しているだけで、言動や行動は格段に人間らしくなる。
ちなみに、他キャラとの絡みを禁止したのは、受け身のイベントになる可能性があるからだ。
例えばヒロインをデートに誘ったとしても、
「この服似合いますか?」→「はい」
「夕日がきれいですね」→「はい」
などと、「はい」か「いいえ」しか言わなくていいような、主人公の主体性などあったもんじゃない展開が作れてしまう。
お前は○ラクエの勇者様かと批判が殺到すること間違いなしだ。
だが、実際にテンプレもののストーリーにはこういった受け身のイベントが驚くほど多い。
実例を出そう。
とある町に立ち寄った主人公パーティー。なんだか騒がしいなと主人公は道行く人に話を聞いてみた。その時の会話シーンがこちら。
「この街では闘技大会が行われているんですよ」→「よし、出よう」
ありがちな展開ではある。大勢の観客を前に、主人公のチートっぷりを存分に見せつけられるわけだ。
さて、別にこの展開自体に対してどうこう、というわけではない。
この会話シーンにおける主人公の心境をイメージしてみよう。
「この街では闘技大会が行われているんですよ」→(自分の力を試してみたい、もしかするとすごく強い人と戦えるかも? わくわくしてきた!)→「よし、出よう」
( )の中の文章を実際に記載するかどうかは作者次第だが、主人公が闘技大会があることを知って出場を決意するまで、果たして彼の頭の中ではどんな考えがよぎっていたのか。それを作者自身がイメージできているかどうかが重要だ。
逆に、予め打合せでもしていたかのように、イベントだからという理由で決断させていると、主人公の『のっぺらぼう』化が進んでいると思った方がいい。
主人公の人格がどうであれ「別にいいじゃない、面白いんだから」というご意見もあるかと思う。
そんな読者様のご意見がある限りは、私もこういった内容の小説を否定することなんてできはしない。
ただ、ここで前回の考察でも記載した「完結できない」という問題が発生する。
キャラを主体として物語を構築する場合、ストーリーの展開は主人公の『行動』にすべてがかかっている。
では『行動』するために必要なものは何なのか。
身も蓋もない言い方をしてしまえば『欲求』である。
「~~をしたい」「~~になりたい」といった明確な意識。これが主人公にあるかどうか。
これは別に「美女ハーレムを作りたい」でもいいわけだ。
主人公の『行動』は「美女を探す」という一貫性を持ったものとなるし、最終目的は「世界中の美女を俺のものにする」で確定となる。主人公の溢れんばかりのエロ魂が、完結までストーリーを引っ張ってくれることだろう。
では、さっき私が作った『のっぺらぼう』なチート主人公ならどうか。
…………動きません。自分から動く考えなんて持っていないから、物語も進みようがない。
適当に旅をさせて、手当たり次第に魔物を倒すなり事件を解決なりすればいいのだろうが、その一連の流れが終わればまたストップだ。
自分で作ったキャラでありながら、どうしてもこうも頭の中がスッカスカなキャラになってしまったのか。
これまた理由は簡単で、『異世界転生』と『チート』のダブルパンチの影響だ。
さっき作ったストーリーを改めて見返していただきたいのだが、そこで私は、1番と2番で思いっきり手を抜いていた。「どうせ異世界に行くんだから、現世の出来事はすべて無意味」と決めつけて、テキトーに終わらせたわけである。
あえて言うなら、この時点で『詰み』だったのだ。
人間の『人格』とは、これまでにその人が経験してきたこと、どんな環境で、どんな人と、何を思い、何をして生きてきたのか。一言で言うなら『過去』の積み立てがその人間性を形作っている。
『転生』という概念でよく勘違いされがちであるが、主人公が死ぬまでの経験・過去というものはリセットなんてされないのだ。現世の意識を引き継いでいる以上、赤ん坊であろうが世界が変わろうが、人格だけは現世のものを引き継いでいなければならないのだから。
これは、仮に記憶喪失なんて設定を入れたとしても変わらない。記憶が無くとも人格はある。
更に、最初からチートで最強という事実が『のっぺらぼう』に拍車をかける。
欲しいものはすべて手に入れている状態で、不足などありはしないから、それといって欲求がないのが困りものだ。はっきり言って、旅をする理由もよくわからない。
「最初から満たされている」人間が、いったい何を求めて旅をするというのか。
自分を脅かす存在もおらず、安全が保障された旅のことを、人は単なる『物見遊山』と呼ぶのだから。
この2つにより、人格を形成する『過去』を無かったことにして頭の中を真っ白にされた状態の主人公に、最初から何でもできるチートで欲求をすべて満たすことで、「何も考えない」「何も求めない」ぺらっぺらなお人形さんのできあがり、という寸法だ。
と、ここまでまたつらつらと長い考察を述べてきたわけだが、今回の問題に対する解決策は、実はものすごく簡単だ。
――登場人物は、自分と同じ『人間』なんだと意識すること。これだけ。
泣いて、笑って、怒って、悩んで、生きている人間なんだと思うだけで、書き方はがらりと変わるはずだ。
その第一歩として、書く書かないはともかくとして、主人公の転生前の設定こそ、ある程度綿密に決めておくことをオススメしたい。
自分で物事を考えて、主体性を持って動くことができる主人公である限り、彼(彼女)のとった行動がそのまま物語として昇華される。
とことんまでに設定を練り込んだキャラクターは、いちいち作者からストーリーを与えられなくとも、自由気ままに生き生きと動いてくれるものなのだから。
そこまでのキャラを既に作り出せている作者様は、こんな考察などぜひ「余計なお世話だ」と言ってすぐにでも忘れてほしいと思う。
本当にすいません、(たぶん)もう書かないです。
こんなことで油売ってる暇があったら、連載の更新進めなきゃですよね!!
12/6 連載版に差し替えました。続きはこちらから。
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