02. 五課
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警視庁刑事部には捜査五課という部署がある。
捜査一課は刑事ドラマでよくお目にかかる花形部署で、言うまでもないが、殺人、強盗、暴行、傷害事件などを取り扱う部署だ。
捜査二課は賄賂、選挙違反などの知能犯、捜査三課は窃盗、盗作など。捜査四課は暴力団専門だ。
そして、捜査五課。
この部署は超常が現れるまでは存在しなかった部署だ。
超常犯罪。
捜査五課が専門とするのはこれまでの法律では裁くことができなかった、非情な超常犯罪を取り扱う部署。
そして超常において、捜査能力において、天才的な才能を持つエリートの集団でもある。
部署が警視庁本庁に無いこともあって、警察では浮いている存在と言えるだろう。
そしてその捜査五課で、今回の『アンダーブラッド』の犯行予告についての捜査会議が行われていた。
「で、今回警察に送りつけられてきたこの犯行予告だが、あの無能な犬ども上層部がうんたら抜かしやがったおかげで、五課に届いたのは一日経ってからだったのはふざけていると思うよなァ!!!!」
ばーーーん!!! と、今しがた犯行予告のコピーをホワイトボードに叩きつけたのは捜査五課一係の係長である荒川モトミだ。
物騒な言動が目立つが、刑事部一の美人と言われている。
「......うるさいですよ」
しーーーん... と、至極まじめな態度で、冷やかな目線を送っているのは白神悠也。二十代前半の大学生くらいの青年である。
こちらはと言うと、もの静かでもはや感情がないのではないかと、荒川は思っていたりするが、年上にも年下にも敬語を使う人間である。
「うるさいって、お前が静かすぎるんだよ。面白くないな!」
「捜査会議に面白いを持ちこまないでください。鬱陶しいです」
「ぬっ! 上司に鬱陶しいなどと言ってはいかんぞ!! はっはー、お前は出世に苦労するタイプだと見た!」
「うるさいです、ていうか、係長が出世しないから俺が出世できないんですが」
と、別に白神は無感情な訳ではなく、少々毒舌なくらいだ。
至極まじめに、だけどどこか面倒くさそうに、イスに座っている。
「ていうか、今日は他の人たちはいないんですか?」
というのも今現在、ここにいるのは荒川と白神の二人だけなのだ。はたから見れば、大学生が一対一で補習を受けているようにしか見えない。
「ああ、河内とゆーちゃんは別の事件に当たってもらっているからな」
「そうですか、残念です。係長と二人きりなんて」
「......どうも一言多いよな、お前は。まぁ二係の連中も忙しいだろうし、何より貸しなんざ作りたくないし」
「二人でなんとかするしかない、と?」
「まぁ、そういう事だ」
基本、刑事は二人一組で行動するとは言うが、社会問題並みの大事件を二人で担当する話なんかないだろう。
だが、可能なのだ。
捜査五課の警察官というのは、そういう存在なのだ。
「で、今回の『悪人』はクローン人間だそうですね」
ようやく本題に入る。
「ああ、困ったことにな。今までは誰が狙われるかわかっていた分、捜査するのも警護するのも楽だったんだがな......」
「今まで、『悪人』を守りきれた割合は大体六割程ですが、それはやはり『悪人』が誰かわかっていたからですからね。まずクローン人間を探すところから始めるとなると、さすがに二人はキツいと思いますが」
しかし、白神の最もな問題に対して荒川は首を振った。
「いや、それについては大丈夫だ。マスコミはまだ知らないか自主規制しているのかは知らないが、居場所はわかっている」
「え?」
「ほら、ここ見ろ」
そういって、荒川は犯行予告の最後の文章を指さした。
『なお、今回の処刑対象は橘ヶ丘高校在籍の高校生である。このような若い人間が罪を犯しているという事実は非常に残念な事だが、我々「アンダーブラッド」は、正義の名において、罪人を放置することはできないのである』
「橘ヶ丘高校、確か都内の公立高校でしたよね?」
「ああ、マスコミがこの事を公表していないのが救いだ。下手に騒がれないうちに、さっさと済ませてしまおう」
今までの勝率は六割。だがいまだ、『アンダーブラッド』を捕まえる事はできずにいる。
今回で終わらせてやる。
そう何度目かの決意をする、荒川なのだった。
▼▼ 3 ▼▼
『裏』世界の組織『アンダーブラッド』。
今や日本中で知らない者はいないほど有名になった、否、なってしまった組織。
一体、何がきっかけで、これほどまで名を広めてしまったのか。それは当の男にもわからなかった。
当の男。
すなわち、『アンダーブラッド』のリーダーである。
名は『愛禍』。勿論本名ではなく、『裏』世界でのコードネームだ。
『愛禍』は外界に素顔を晒さないよう、白い仮面を被っていた。
彼の部下もまた一様に、白い仮面を被っている。
「さて、」
『愛禍』が口を開く。
「予告通り、次の『悪人』はクローン人間だ。にわかに信じられない者もいるかもしれないが、どうやら本当に存在したようだ。私も最初はどうしたものかと悩んだものだが、確実な情報を手に入れた」
「その情報、というのは?」
『愛禍』へ問うたのは彼の部下の一人だ。
「ああ、心配しなくていい。『裏』世界の人間が気軽に口走ってはいけない事だが、今回に関しては信用できる情報だ」
信用。『裏』世界で何よりしてはならないもの。
信じれば、殺される。
裏切れば、生き延びる。
そんな世界なのだ。
「勝率はいか程で? これまでの勝率はおよそ四割と言ったところですが」
「ああ、そうだな。これ以上勝率を下げてしまっては、影響力が落ちてしまう。いい加減目を瞑ってくれても良いだろうに。捜査五課の連中も」
「御冗談を」
「ははは、ほんのジョークだよ。無論、向こうも手を抜く気はさらさらないだろう。ならば我々はその上を行くまでだ」
「はい」
『愛禍』は立ちあがる。
彼、そして『アンダーブラッド』のメンバーは他人を信用しない。
勿論、同じ組織の人間とて、それは例外ではない。
言ってしまえば、ただ同じ目的を持っているから組織としてまとまっているのだ。
烏合の衆。
だけど、それでも彼らは捜査五課と拮抗する程に、団結している。
それは何故か。
彼らは誰も信用していない。だけど、唯一彼らが信用するモノ。
それは自分の意志。己にとっての正義。
彼ら一人ひとりはここにいる理由や経緯は違うのかもしれない。最終目的は正反対なのかもしれない。
だけど、彼らの意志の力はそんな些細な事などどうでも良い程に、強いのだ。
「異存はないな、行くぞ!」
『アンダーブラッド』は立ち上がる。悪を排除するため、己の正義のために。
▼▼ 4 ▼▼
「で、どうするんですか、具体的に」
橘ヶ丘高校を前に白神はそう呟いた。
橘ヶ丘は『衛星都市再開発政策』によって東京郊外に開かれたニュータウンだ。
ニュータウンと聞くと、どうも昭和な感じがしてしまうが、仕方ないだろう。
この街に来るのは初めてだったが、どこもかしこも真新しく、綺麗に整備されていて、住みやすそうな街だな、と白神は率直な感想を抱いた。
「うん、学校と話はついてるから、潜入捜査で行くぞ」
「はぁ、それは良いんですけど、だから具体的にどう潜入するんですか? ここ一応高校ですよ?」
すると荒川は、自分のカバンをごそごそと漁り......、
「はいこれ、制服。ああ、私は先生で行くから」
出てきたのは橘ヶ丘高校の制服だった。
「いやちょっと。俺一応二十歳こえてるんですけど。どう考えても不自然ですよね!? ていうか、係長先生するんなら俺も同じで良いじゃないですか!」
「いやさぁ、やっぱ先生と転校生じゃ距離感が違うじゃん? 先生に話してくれなくてもミステリアスで大人っぽい転校生ならいろいろ話してくれるかもじゃん?」
「おいコラ、大人っぽいじゃなくて、大人ですよ俺」
「まーまー、細かいことは気にするなって! どうせ潜入するんだから生徒だろうが先生だろうが一緒だって!」
「はぁ......。わかりましたよ。着ればいいんですよね、着れば」
「よろしい!」
大人の威厳というか、白神のプライド的なモノを傷つけた事など気にせずに、校門へと突入する荒川なのだった。
この人、やっぱり楽しんでないか? と少々不安になる白神である。




