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黒羅刹の刑事  作者: ますむ君
捜査五課
1/6

01. 百合姫 綺花

 結局、人間は魔法なんていうファンタジーな超常を手に入れても、以前と比べて、何も変わらなかったのだと言ってもいいだろう。

 そんな非日常の存在がいつこの世界に現れたかなんて、もう誰も憶えていないのかもしれない。

 だって、そんな事はどうでも良いのだから。


 とはいえ、魔法だか超能力だかが現れたことによって世界が大きく変化したことには変わりない。

 

 例えば、超常を利用した科学の発展。

 例えば、ほんの少し前にアメリカ・ロシアで起きた所謂、魔法戦争。

 例えば、超常によって利便化、効率化した日常生活。

 

 まぁ、世間一般常識的範囲で言えばこんなところか。

 常識的に。


 だが、常識的な範囲で収まるはずがないのが人間だ。

 超常の発現以前でさえ、荒れ乱れていたというのだから、更なる狂気が所謂『裏』世界に蔓延るようになってしまったのは、言うまでもない。

 

 そして、その狂気は善良な一般市民の世界にまで侵食してしまっていた。

 

 世界を変え、人間の生活を大きく向上させた、超常。

 だけど、魔法だか超能力だかわからないそれは、常に良い方向へ世界を、生活を傾けてくれるとは限らないのだ。


 そう、例えば。

 

 最近、善良な一般市民の間で、流行っている、というか、話題になっている社会問題がある。

 

 『アンダーブラッド』。


 そう名乗る集団が所謂『悪人』を次々に処刑しているというのだ。


 『アンダーブラッド』。その集団は本来、『裏』世界の住人だ。善良な一般市民は決して知るはずもなく、ましてやネットでトップニュースを飾る程の社会問題になるはずのない、闇の組織。


 彼らが一体いつから処刑を始め、善良な一般市民にネットで検索されるようになったかなんて、誰も知らない。知ろうとする者すらいない。


 どうでも良いのだ、そんな事は。


   ▼▼ 1 ▼▼


 百合姫綺花(ゆりひめ あやか)は都内の公立高校に通う、女子高生だ。

 JKと呼ばれ、流行の最先端を行く、リア充の集団の一員である。

 

 と、言えばいかにも女子中学生あたりから憧れられそうなものだが、実際はそうでもないな、と綺花は思う。

 いや、全然そんな事ないか。

 とても、中学生がその純粋な目でキラキラと憧れるような存在ではないな。

 

 まぁ、実際、何に関しても憧れというのは所詮そんな物なのかもしれない。

 

 憧れている間は輝いて見えても、自分がそこまでたどり着いた瞬間、それは錆ついてしまう。


 綺花はそう思うのだ。

 そして、そう思うのは彼女の経験則からか。

 

 「なーんかなぁ......」


 かったるい気持ちで、彼女はそう呟いた。

 

 こんなはずじゃなかった、私はこんな物を望んではいなかった、という言葉は良く聞く。

 

 今の生活が嫌になっている綺花だが、実はそうは思わない。

 

 こんなはずじゃなかった、私はこんな物を望んではいなかった、というより、憧れと同じように振舞っているのに、どうして輝けないのだろう。こんな感じだ。


 「そういえば綺花、今朝のニュース見た?」


 「んん、今朝は起きるの遅かったから見てない」


 揺れる電車の中、綺花の隣で同じく吊革を握っているのは折沢 真奈美(おりさわ まなみ)。綺花の一番仲の良い友達である。

 別に同じ中学だとか、ましては幼馴染などではなく、高校に入って、それも二年生になってから知り合った友達。一年の頃までは名前すら知らなかった程だ。


 クラス替えをして、たまたま席が隣で、たまたま家の方角が一緒だったということで、こうして毎朝一緒に通っている。

 仲が良くなったのはそれからだ。

 通学途中、真奈美が自分の好きなアイドルやら趣味やらをベラベラと喋り続け、意外にも気が合い、仲良くなった。


 今では、お互いがお互いの相談相手だ。嫌な事があれば、自分の不満を打ち明けられる、そんな仲。

 だから、綺花は真奈美の事を良く知っているし、真奈美は綺花の事を良く知っている。

 

 「どーしたのよ、綺花。あなたが寝坊なんて珍しいわよ?」


 「ちょっと昨日遅くまで起きてたのよね......」


 「健康優良児の綺花が夜更かし? ますますどうしたのよ?」


 「う、うるさいわね、私だって高校生なんだから夜更かしぐらいするわよ」


 そう言って、綺花はため息を吐いた。

 やぱっりダメだ。この頃どうも調子が乗らない。


 「で、なんだけどさ! また『アンダーブラッド』が犯行予告を送りつけたんだってさ!」

 

 「ああ、また? 次は誰を処刑するのかしらね。いい加減、総理大臣が狙われてもおかしくないんじゃないの?」


 と、興味なさそうにあしらう綺花。

 何というか、嫌なのだ。


 正義を名乗り、『悪人』と呼ばれる人たちを勝手気ままに処刑する『アンダーブラッド』が、ではなく、その『アンダーブラッド』の犯罪行為を正当化しているような善良な一般市民が、不快なのだ。

 一体、ネット上で馬鹿みたいに『アンダーブラッド』を煽り、騒いでいる奴らは、自分がその『悪人』認定された時、どういう反応をするのか、そのことには興味があるが。

 

 「で、誰なのよ、次の『悪人』は」


 「それがね、今回は名指しじゃなかったのよ」


 「名指しじゃない? それって無差別ってこと?」


 名指し。今まで『アンダーブラッド』は個人を特定し、処刑してきた。

 例えば、前回処刑された『魔法医学研究所所長 藍村 宗司』とか。

 ちなみにこの藍村は、所謂覚醒剤に魔法、つまり超常を応用し、さらなる快感と中毒性を引き出させたマッドサイエンティストである。

 自身の研究室で心臓を的確に一発、撃ち抜かれて死んでいた。


 「いやいや、無差別って訳じゃないんだけどさ......、やっぱり今までとは趣向が違うって言うかなんていうか......」


 「んん?? どういうこと?」


 真奈美は、周囲の目を気にしながら、綺花にだけ聴こえるように言った。


 「今回の『悪人』は、クローン人間なんだって」


 絶句。

 そんな馬鹿な。

 なんだ、ついに『悪人』のストックが底をついたと言うのか?

 いやだとしても、なぜ、クローン人間?

 超常が存在する現代社会において、いまだ禁止されているというのに。

 そんないるかいないかわからない存在を処刑する事にしたのだ?

 もっと裁くべき『悪人』はいるはずなのに。


 「どうしたの、綺花?」


 「えっ、あああ、ごめん。ちょっとまだ眠い......」


 あくびをして誤魔化す。


 「ふーん、気を付けなよ?」


 「な、何が!?」


 「何がって......、授業中寝てたらあの鬱陶しい担任に呼び出されるわよ?」


 「あ、ああ。うん、大丈夫」


 本当に? という表情を真奈美をしていたが、綺花はどうも、やはり頭が回っていないようだった。


 綺花は眠い頭をどうにか動かしながら、橘ヶ丘高校へ向かうのであった。

 

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