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間話 僕は生前にアカシック・レコードを見た

生前の主人公がジョーカーと名乗る謎の少女に会い、アカシック・レコードを見るくだりです。


 7月1日、まだ梅雨。


 んふふ、大漁大漁。

 僕の両手の紙袋にゲーセンの景品がぎっしり。


 僕は、最近なにかとツイている。

 さっきのゲーセンでは、景品を大量ゲットした。

 しかも激レアなフィギアを2体も取れたなんてありえないね。


 思い起こせば。

 じゃんけんは負けない、無敵無双。

 買い食いのアイスが連チャンで当たりを引いた。

 一学期の中間テストの山は当たってどの教科も自己最高得点、国語なんか奇跡の50点超えの52点をマークした。

 朝に都市伝説のトーストダッシュの実験をしたとき、見事に女の子にぶつかった。

 そのぶつかった時に、見た目と言動がアレな感じだけどそれなりに可愛いコの御開帳ラッキースケベ拝観ゲットした。

 もうね、なんかね。


 近いうちに、なにか、こう、とてつもない事が起こりそう。

 コワイ、コワイ、怖いぐらい……楽しみだ。


 今度は、あの見知らぬ可憐な少女が僕を見ているぞ。

 きっと、あのコと関わるかもしれない、今の僕ならね。


「お兄さん、ちょっと。そこのお兄さん」


 はいきたっ!

 やっぱり、僕はツイている。

 ちょうど、ヒマを持て余してたところに、たまたま視界に入ってきた可愛いコから声をかけてきた。


「お兄さん。あなたは、とてつもない運命を背負っているね。観させてくれない? 3千円よ」


 なーんだ。 

 占い師の呼び込みか。

 こんな街なかで小汚いテーブルに座っている。

 梅雨も明けない時期にデニムのブレザーを着ているなんてなんてどんなセンスだよ。

 見ると、僕と同じぐらいの年令か。

 可愛いのにデニムで占いなんて、雰囲気台無しだろ。

 そのセンス、まことに疑わしい。


「うん。お兄さんはね、強運も時間も有り余ってるくらい持ってるけど、あいにくお金がない。またね」


 カワイイ娘から声かけてくるなんてエロゲ展開は、ありえない。

 中2の僕には、どんなにカネがあったとしても3千円を占いになんかにぶっこむ勇気はさすがにない。

 だから、ここはリリースして次回に期待するか。


 すると、少女はムキになって返してきた。


「イケメンのお兄さん。いまなら3百円、なんと90%オフ、どうですかぁ」

「ふーむ、いきなりの90%オフなんてどうなの。あいにくゲーセンで全財産をUFOゲッターに突っ込んだんで財布は空っぽだ。お金はすでにないんだ。ちなみにゲーセンの景品なら、ほら、腐るほどあるけどね」

「ええっ、すさまじい運命を背負っているお兄さんと楽しく占いしながらお話したかったのに。しくしく」


 くっそ、あざとすぎる。

 僕はそれに引っかかってみることにした。


「んー、よし。もったいないがこの大人気エロゲーの『き・わ・ど・いっ!!巫女たん』の妖怪触手でふにゃ~魔改造バージョンの激レアフィギアを2個ゲットしたので一つを君にあげるよ。転売しても1万円以上、ネットオークションでも最低3千円はカタい。君も運がいいな。これで占ってくれよ」

「そっ、そんなぁ」


 そう告げてデニムのコにフィギアの入った箱をわたすと、彼女は箱をまじまじと見つめ、かあっと顔を赤らめてあわてて机の下のかばんに隠すように入れた。

 少女は、こほん、と咳しつつ息を整え、テーブルからイスに座り直す。


「改めまして。わたし、ジョーカーといいます。あなたの運命を見させていただきます。よろしく」

「お、おう」


 ジョーカーと名のったコ、仕事用の名前だな。

 厨二すぎるだろ、本名を名乗れっつうの。

 そのジョーカーは、フィギアを入れたカバンから1冊の本を取り出した。

 どかっ。


 ものすごく分厚くてデカい。

 表紙には太陽と三日月を彫り込んだ板が貼り付けられている。

 本が簡単に開かないように括り紐が取り付けられているが、今は結び目が解けそうだ。

 さらに、わけのわからん文字が載っていた。

 少なくとも僕の知ってる文字ではない。

 第2水準漢字やアルファベットやキリル文字とかの文字でもない。

 ジョーカーは、表紙に書かれている文字を指でなぞりなが読み上げる。


火鳥竜人ひどり りゅうと14歳。20××年7月7日生まれ。父、竜雄、母、瞳」

「ちょっ、おまっ」

「これは、あなたの『アカシック・レコード』です。これには、あなたの過去、現在、未来が書かれています」

「おい、なんで僕の名前とか知ってる? それ個人情報じゃないのか」

「はい。あなたの魂に刻まれた今までの全記録と、未来の全てですから」

「そんなん、勝手ってに作らないでよ」

「いえ、あなたがこの世に出た瞬間から存在するものですよ。日々の記録もこれに事細かく書かれているの」


 ジョーカーはそう言うと本をパラパラめくっていく。

 しかも印刷でなく、手書きでびっしり細かく文字が書き込まれている。

 表紙の文字同様、見たことのない文字だ。


「例えば、昨日の記録。6月30日の記録によると、AM7時43分28秒目が覚める。43分38秒起き上がりトイレに行く。ふーん、すごく寝起きがいいわね、血圧が高いのかしら。あはっ、44分2秒、便器の前、朝立ちでパンツが脱げずにあせる、44分52秒放尿開始、しかし、狙いが定まらずファールし、慌てる。ぷぷ、遅刻しそうな時間に落ち着いて起きて、トイレでアセるなんて、あなたは大した大物ね」


「ス、ストーカー? つか、隠しカメラ仕込んでんだったら文字にせず、動画のほうが簡単だろ。この変態ストーカー娘」


「違うわよ、あなたの今までの詳しい言動の記録と、未来のおおまかな予定なのよ。うーん、そうだ、今、現在のページを見せてあげる」

「読めねーよ。……あ、文字が浮き上がった? また、だ」


「たったいま、あなたの喋ったことが追加されている」

「えっ、あーあーあー。おお、なにか喋った瞬間に文字が浮き出る。ははっ、読めないけど面白い手品だな。そうだ、○んこ、お○んこ。今のも記録されてるわけ?」

「ええ、しっかり。バカねえ、貴方自身でくだらないことでアカシック・レコードを汚すことないでしょ。まったく」

「つまり、僕の運命を見るというのは、この本の未来の部分を見れば分るってことか」

「そうよ。ただし、それには条件があってね。この本の文字が読めることと、あなたの許可を得ること。あなたは、わたしに読むための対価フィギアをわたして運命を見ることに同意したのです。だから、その時点で本の封印紐が解けたんです」


「それじゃ、僕の運命とやらをサクッと見てよ」

「わっかりましたぁ」


 ニコッとわらうと幼さ全開のかわいさがはじける。

 やっぱ、あざとすぎる。

 細かく書かれたところは過去の部分、すなわち事実の記録、大まかでざっくりとしか書かれていない部分が未来のようだ。

 正確に観察すると、見出しというかタイトルみたいな部分がこれからの予定で、その下に進行している僕の言動や事象が書き足されて行くという感じだな。

 でも、全然読めない。


 ジョーカーは小声でブツブツとその見出しらしきものを読み進めながらページをペラペラと読み進める。

 そして。


「なっ、えっ? はやっ」

「うん? どうした?」

「まことに言いにくいのですが。火鳥さん、太い運命を持ったまま、来週の7月7日に死にます」

「おいっ、僕は……死ぬのか? 君はすさまじい運命を背負っていると断言したくせに、余命一週間……だと?」


 ジョーカーはページを後戻りしながら確認している。


「ええ、しかもすでに死神があなたを監視している。最近は世界の人口が増えすぎて死神はめったに現れないのに、あなたの凄まじき運命をもつ魂に魅せられて、その手で刈り取ろうと待っている」

「死神って! そんなキメェ奴が狙ってる? 嫌すぎるだろう。……冗談と言ってくれ。逃げられないのか」

「まず、普通の人間は逃げられないわ。そして、あなたは、すでに昨日、死神と出会っているわ」

「昨日? いったい、いつどこで? 誰なんだ?」

「昨日の朝、学校へ行く途中、死神にぶつかっている。まあ、どうしたら死神の大股開きパンツを強調して記録に残っているのかしら」


 ジョーカーの指をさした部分をみると、その箇所が太文字で幾分大きく書かれている。


「ああ、あのコか。朝っぱらから太もも丸出しのゴスロリファッションで高慢ちきなコか。パンモロは美味しく拝見したけどね。あの残念なコが死神なのか?」

「あはは。そう、そのコが死神ね。間違いない、というか、わたし、そのコと知り合いだけどね」


 ジョーカーは本から僕に視線を移し、そして僕の背後や周りを見渡す。


「いま、私から見えないけれども、その死神のコはあなたをどこからか見ているはずだわ」


 僕も不安になり、振り返る。

 あ、いた。

 視線が一瞬合った。

 引きつりつつも、笑っていた。

 そしてその陰はすっと人混みに紛れて見失う。


「おっと、いま、あのコと目があったよ。やばくね?」

「死神に魅入られたら、死を免れることはできないわ。というか、その、死の瞬間がすでに決定している。ただ、死神の仕事は確実に行われるため、勝手に早めたり、遅らせたりすることは出来ない。死神の鎌から逃れられないわ」

「それじゃあ、教えてくれ。7月7日の何が原因で死ぬのだろうか」

「そこまでは書かれていないわ。まだ、不確定要素なのでしょう。ただ、その日中に死ぬことが決まってしまっている。どういう行動とっても、何かしら起こって死ぬということ。つまり、海に行こうが山に行こうが、どのルートをたどっても死ぬ、ということよ」

「ははは、そうか……」


 さすがの僕もへこむ。

 ここ最近、異常に運がいいのは、死ぬ前兆だったのか。

 だが、待てよ、もうすぐ死ぬって話はおかしくないか?


「確認したいことがある。君は、僕にはすさまじい運命がある、と言ってたよな」

「えっ、ええ」

「そのすさまじい運命ってなんだ? 死ぬのが凄まじいのか? そうじゃないだろ、死は人なら誰にでも平等にあることだからな」

「そっ、そうね。まずは、このアカシック・レコードの大きさがね、あなたのは他の人のより規格外なの。大きさは運命の大きさ、厚さは生き様の内容、重さは魂の重さ。とにかく、世界図書館ライブラリーの一般人の棚には入りきらなくて、いわゆる賢者、勇者、英雄、覇者などと呼ばれた歴史を作ってきた人たちと同じ棚に収められているのよ」


 僕のアカシック・レコードとやらは、歴史上の偉い人と同列ということになっているらしい。


「それと、私は人のまとう魂の色がみえるの。オーラという人もいるけど、そういったものかな。あなたの場合、纏う色があまりに色が濃く、眩しく、そしてものすごく漆黒に見えるの。不浄と清浄が同居している感じかな。そして普通では相容れない色相が波打って同居しているようにも見える」

「意味わかんね」

「うーん、光と闇が交互に入れ替わるというか、明滅している感じというか。脈打つようにそれぞれの色と光と漆黒に変化していくように見える」

「色のことはとりあえず置いといて、7月7日死ぬまでの間に何か劇的なことが起こるのか?」


 ジョーカーは再度、7月7日のページまで流し読みする。


「いえ、予定を見る限り、いたって代わり映えしない日常よ」

「おいおい、それじゃ、すさまじい運命っていう表現はおかしいだろ。いや、待てよ、今気がついたのが。その本、アカシック・レコードってのは、その人の一生分の記録が記録されるのだよな」

「そうよ」

「そうか、じゃあ、その7月7日以降のありあまったページはどういうこと?」

「え、あっ、たしかにおかしいわね。死んだ時点でその人のページは最後の一枚になるはずなのに」


 ジョーカーは7月7日以降を注意深くめくっていく。そして、パラパラっと最後までめくる。


「やっぱり、何も書かれていないわ。あれっ? 最後のページだけ書かれているわね。変な詩、でも面白そう」


 ジョーカーは書かれている部分を指で撫でる。まるで目で読み取るというより、点字を触覚で読み取る感じだ。


「20××年7月7日……」

「それ、来年じゃねえか?」


 ジョーカーは息をすうっと吸い込み一気に読み上げる。


 女の失敗を許し

 女の慈愛を受け 

 女に騙され、けなされ

 噛みつかれても許す


 女の願いを叶えるために

 女の胸の中で

 最愛の女の手により

 ……最愛の女達のために永眠す


「……また死ぬのか? 僕は2度死ぬのか? つか『最愛の女』が沢山続きすぎて、しかも最後の女『達』ってのは、なんだ? 女が沢山いるのか?」

「ぱっと見た目、かっこいい男の詩だけど、冷静に見るとかなり色男いろおとこのドロドロ展開だね」


 僕の想像ではハーレムの中で女どもの嫉妬で殺される展開しか見えないのだが。

 

「じ、自分で言うのもなんだけど、僕がそんなイケメンホストなわけないよ、そのアカシック・レコードは同姓同名の別人じゃない? 死にたくないし」

「間違いないわ。あなたの同意で紐が解けた。ということは、あなたのアカシック・レコードで間違いないわ」

「もっと、いい思いしてから死にたかったなあ」


 リア充にもなれなかったし。


「まあ、わたしが読めるのはここまで。未来の記録が大雑把なのは、その人の人生の過程においては選択肢が幾つもあることと、結果や重要な通過点は既に決まっていることなのです。一週間後の7月7日から一年後の7月7日が空白なのは、いろいろな事が起こりうるけど、最後の死の記録につながった時、あなたの人生はそこで終わる」

「くそっ、まじか……よ」

「まあ、あなたの本当の運命というか人生は、来週以降の一年間が本番だね。太く短く生きてね」


 ショックだ。


「ねえ、なんで、僕のアカシック・レコードなんてもの持ち歩いているんだ?」

「わたしはジョーカー、面白い事件とかが大好き。一応、神族の中のトリックスターと呼ばれる一柱の神よ。人の運命を左右する権限や能力があるの。普通に考えればアカシック・レコードなんて本人に見せるのは禁忌だけどわたしにはそれが出来る。実は書き足しや書き換えも出来るのは秘密よ」


 ジョーカーはカバンから銀色に輝く羽ペンとインク壺をとりだし、僕のアカシック・レコードになにやらサラサラっと書き込んだ。


「それでは、ここにあなたの署名を書いてください。そうしたら書き換えの意味がわかるから」

「ああ、……これでいいかな」

「はい。では、料金3千円よ」

「じゃあ五千円で」

「毎度ぉ、2千円お釣り。面白いもの見せてねー。また会いましょー」

 

 ジョーカーは頭をぺこりとさげる。


 おれは、一体どうなるんだ……。

 あ。

 あああ!

 なぜだっ、なぜ、払った?

 払いたくないお金を払ったのは、書き換えの結果なのか!

 すぐに振り返るとジョーカーも、小汚い机も、カバンも消えていた。


 神を名乗るくせにセコすぎる。

 お金とるならフィギア返せよ。


 マジでショックだわ。

トリックスター:気分屋の神。気に入れば良い方に、気に入らなければ悪い方に導くとされる。楽しければOK的なカオスな面も持ち、様々な運命をかき乱す傾向にある。

見料を払ったのは:アカシック・レコードに「3,000円支払う」というのを書き加え、本人のサインにて認めさせたため、記載された支払いが実行された。

書き換え権限と能力のあるトリックスターが書き込み、本人のサインで認めるということで本人の運命が実行される。

 ちなみに、この時点でのジョーカーはいたずら程度しか認識していない。


サイフ:主人公の愛用品は、みんな大好き中2御用達のバリバリサイフ。

大人気エロゲーの『き・わ・ど・いっ!!巫女たん』の妖怪触手でふにゃ~魔改造バージョンの激レアフィギア:そんなもの知らん、知らんぞマジで

UFOゲッター:UFOキ○ッチャーみたいなアレ。浅はかな作者による商標対策として改名したもの

○んこ、お○んこ:加工食品。あんこ、おしんこ。読者にミスリードを誘うささやかな小学生脳作者の罠。


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