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僕はまた狼に噛みつかれた

 暗闇の荒野。

 僕とマリルの目は昼間のようによく見えている。

 僕の場合は、闇の眷属の下僕として、マリルは死神が故の不浄の存在としての力をもって高度な暗視能力を得ていた。


 たった今、僕とマリルは1匹のオーガと3匹のゴブリンの盗賊をギリギリところで排除したばかり。

 一匹逃したゴブリンが沢山の仲間を連れて迫ってきている。

 その数、約30匹。

 ゴブリンどもは石斧、錆びた短剣や槍、木の棍棒などを持ち、オーガは金属の棍棒や大斧を持っていた。

 亜人間の盗賊団に負けると、男なら切り刻まれ身ぐるみ剥がされてしまう。

 女だと、生き死に関係なく身体を蹂躙され続けるという。

 僕はたぶん、切り刻まれてもすぐには死なないだろうが、夜が明ければ灰になってしまうだろう。

 マリルは、もっとひどい目にあう。

 生きていても地獄、死んでも地獄。


 さらに、遠くに聞こえてたオオカミの咆哮も、間近になった。

 気が付くとその群れが迫ってきているのが見える。

 魔界だけあってその大きさもかなりデカい。

 2~3メートルはありそうだ。


 大きな岩を背にした僕と死神少女マリルを中心に、マリルの助手たちに守られつつ、亜人間のゴブリン、オーガの集団に囲まれ、その外周は無数のオオカミの群れが取り囲んでいる。

 絶望的状態だった。

 

「最後ぐらい悪あがきするわよ」

「了解」


 マリルの声は震えていた。

 マリルの黒い助手達はゴブリンに群がる。

 僕とマリルはオーガの猛攻を必死に避けながらゴブリンを一匹づつ、仕留める。

 しかし非戦闘員の助手との慣れない連携ではさすがにすぐ詰んでしまう。


 モブキャラ。

 マリルの助手達を一言で言うと、その他どうでもいいくらいの存在。

 助手達は無力のままフルボッコで打たれ、切られ、突かれていく。

 どんどん亜人間どもの狂気に屠られていった。

 頼みの足止めの助手はすべて霧散していった。


 絶体絶命。

 僕は諦めと開き直りによって、冷静になり、落ち着きを取り戻す。

 諦めたらそこで試合終了だと、僕の好きな漫画の先生が言ってたな。


 僕らの周りの状況が予想外の事態になっていることに気がつく。


 僕らをつけ狙っていたと思っていた狼が次々とゴブリンやオーガに襲いかかり、喰いついている。

 喉笛、腕、もも、足、腹に鋭い歯牙で噛み付きまくる。

 もがいても、振り払っても、巨大な狼たちが容赦なく群がる。

 次々と亜人間どもからあがる血しぶきと断末魔が辺りを支配していく。

 たちまち盗賊団の亜人間たちは蹂躙されていった。

 まだ狼たちがびっしり蠢いている中、ひときわ大きい狼が僕らの前に飛び込んでくる。

 狼のボスか。

 で、デカい。

 ギラつく目で僕とマリルを見下ろしている。

 狼の大きな口から唸り声が漏れ、べろりと舌舐めずりしている。


 ぐわっと口を開く。

 禍々しい牙と歯が並んでいて圧巻される。

 そして。


 かぷっ。


 僕の頭を覆うように噛み付く。

 顔面を大きな舌で舐められる。

 尖った歯が僕の首に食い込む。

 

 ああっ、この感触、もしかして。


「きゃあああああああああああ」


 黄色い声が響き、僕は開放される。

 僕は、顔に当たる巨大な狼の舌をぺろっと舐めた。

 また頂きました。ありがとうございました。

 しかし学習しないな、こいつは。 

 ふむ、思った通り、こいつはケモミミ少女、シルバーだった。

 狼の群れの外側までひとっ飛びして涙をためて僕を睨んでいる。


 暗視で毛の色が違って見えたが、頭すっぽり咥え、歯が首に食い込み、そして顔面ベロリという、同じシチュエーションですぐに確信したのだ。

 打つ手はひとつ。

 口内ベロチューの一択。

 これが、オオカミ娘、シルバーの攻略法である。


 僕と狼少女の生暖かいふれあいの最中、大きなコウモリが頭上を旋回する。


「あは、リュートさん、そして無様な死神さん、こんばんわ。私から逃げられると思ってたの?」


 高笑いとともにドヤ顔でレティーが現れる。

 コウモリの姿のレティが僕達が背にしている岩の上に舞い降り、人間の姿に変身する。

 レティの城で出会った時の姿と同じ光沢のある真紅のブラウスに漆黒のストールを羽織っている。


「こそこそ逃げる小心者にバチがあたったのよ」

「出たなコウモリ女。あんたが、ヨダレ垂らしながらがーがーイビキかいて爆睡してたんで気を使って静かに出ていったのよ」

「がっ、がーがー? よっヨダレなんてしないわ、失礼な」


 レティは、余裕の顔を出来るだけ保っていたが、さすがにマリルの下品な言葉に、片眉がピクピク反応してしまっている。


 狼達は非情な掃討戦、というか、亜人間どもを食い散らかしそれぞれの胃袋を満たしていた。


「ねえ、死神さん。せめて、お礼とお詫びをしたらどう? 両手をついて土下座したら許してあげるかもよ」

「あら、余計なことをしなくても良かったのに。これからあたしの無双伝説が始まるところでしたのに。出しゃばったあんたが謝罪するべきよ」


 完全にマリルの負け惜しみである。

 レティの配下の狼たちがいなければ今頃、僕たちは間違いなく蹂躙されていたのだろうから。


「レティさん、僕達が悪かったです。そして助けてくれてありがとうございます」


 僕はさすがに土下座はしなかったが、深々と頭を下げて素直に謝った。

 マリルは、プライドが許さなかったようで絶対に謝らない。

 それどころかイライラさせ、いかにも終始機嫌が悪い。

 マリルはまだ震えが止まっていなかった。

 涙をこらえながら、レティの視線を合わせまいと斜め下を睨んでいる。

 そして居心地悪くなったのか、この場から離れ、食い散らかされた亜人間どもの魂を刈り集めていた。

 レティはそんな彼女マリルの様子を見て満足そうだった。



 真夜中の荒野の一本道。

 見渡す限り乾いた大地に灌木やその茂み、大きな岩がゴロゴロ転がっている。

 道には轍がくっきり残っており、以前から何者かの往来がずっとあることを教えてくれる。


 僕達一行、つまり、僕とマリル、レティ、ケモミミ娘のシルバーの4人が、それぞれ大きな狼にまたがり道を進める。

 ほかの狼達は既に解散してどっかへいってしまっていてもうここにはいない。

 まず、目指すは補給と情報を兼ね、オアシスを目指す。


「で、レティ。あんた達はなぜ、一緒に来るわけ?」

「あなたは、当たり前のようにわたしの狼に乗っているけど、感謝というものは知らないかしら」

「あははっ、レティに対しての感謝というものは、一ミリたりとも存在しないわ」

「……。マリル、あなたは勘違いをしているわ。あなたについていくのではなくて、リュートさんについていってるの。だから気にせずにどっかへ行ってちょうだい。死神がつきまとうなんて縁起悪過ぎよ」

「あのねえ、あたしはリュートを救わなきゃいけない義務があるのよ。金魚のンコみたいについてこないで。ケモノ臭いのもたまらないけどンコ臭いのはもっと嫌よ」

「バ、バカなこと言わないで。わたしは上級魔族の令嬢としてそんな悪臭なんてしないわ。屍臭腐臭を放っているあなたの方がクサイわよ。リュートはわたしのもの。私があるじとして責任持って守るから。ウザいあなたは、キンバエと共にどっかへ行ってちょうだい」

「はあ、クサイクサイ。ンコくさいお嬢様、しっしっ」

「プンプンうるさいキンバエ女、叩き潰そうかしら」


 まずい。

 このままの流れだと、お約束のケンカが始まる。

 アツくなる前に流れを変えなくては。


「わー。ちょっとまった。あ、そうそう、気になっていたんだけど、2人はなんで武器でなく素手でケンカするの?」

「それは、武器を使うと戦争になる可能性があるからよ。老害どもの取り決めで使っちゃいけないの」


 マリルはさもあたりまえじゃないという顔で言った。


「私たちが持っている神器や伝説級の武器、魔法や超能力を使って喧嘩すると、当人以外の周りの者に多大な影響と迷惑をかける可能性が高いわ。威力や効果が凄まじいので、周囲が破壊されたり、汚染されたりすることもあるからね」


 レティは説明を続ける。


「ケンカごときで死んだりしたら大変よ。ザコや底辺のモブなら構わないけど、上級魔族の私が死んだら闇の眷属が全力でマリルに報復するかもね。そして今度は死神の一族が報復することになり、戦争が始まる」


 レティとマリルは拳を握って構える。


「だから、ケンカは素手のみで、どちらかがK.O.するまでという掟があるの。拳なら魔族や神族なんかが死ぬことはまずないし、当人同士の問題と責任ということで誰であろうと介入してはいけないという取り決めなの」


 ふむ、めちゃくちゃ野蛮的だと思っていたけど、実は意外と変なところで平和的な理由だったのかと驚いた。

 ただ、卑怯すぎる不意打ちもありなのはズレているような気がする。


「それに、わたしの能力で下僕を使うと簡単にマリルなんか瞬殺ですわ。それじゃ可哀相でしょ。ハンデの意味もあるのよ」

「あたしの死神専用神器の超軽量手鎌なら、レティを痛みを感じる前に刈り採れるわ。そうしないのはレティの魂なんて刈っても臭くて汚いだけでいらないし。手鎌が汚れたらどうするのって感じ」

「あら、わたしがいなかったら地獄行き確定のあなたが、どうしてわたしを刈り採るだって? その発想はありえないわ。脳みそにウジでも湧いたのかしら。殺蛆剤をさし上げるから脳みそごと殺してね」

「ふん、ちょっと強いペットを飼ってるだけなんて自慢にならないわ。ぼっちのお嬢様にはケダモノしか相手してもらえないなんて、可哀想過ぎて笑ってしまうわ」

「マリルこそぼっちじゃないの? ぼっちがこじれるとこうも卑屈でヒネくれてしまうものなのね」

「あ、あたしぼっちじゃないもん。あたしにはこのリュートがいるもん」

「リュートさんはわたしの下僕。死神を廃業して泥棒になったのかしら。わたしのものを勝手に盗らないでね」

「うぐぐっ」


 ま、まずい。

 また、ヒートアップしてきたぞ。

 

「あー、あの。えーと、レティの宝物庫にあったこの棒、なんだか言葉しゃべるみたいだけど何か知ってる?」

「そんなの初めて聞いたわね。ただ、おばあさまのいた時代には既にあったと聞いてるわ。思い通りに伸縮自在で便利がいいから物干し竿に使ってたわね。侍女たちには評判が良かったとか」

「でも、さっき盗賊と戦っていた時に、意志をもった言葉を言って伸び縮みしたりしたけど、何だったのだろう」

「たしかに、指示しなくても持ち主の使い勝手のいいように適度な長さ、太さ、重さまで自由にかわるわね」


 試しに話しかけてみた。


「棒さん、ども」

 

 返事がない。ただの屍、でなく、ただの伸縮自在棒のようだ。

 シャイなのかもしれない。


 マリルは機嫌悪そうだ。

 僕がレティとばかり話をしているのが気に入らないらしい。

 暴言さえなければ、その怒り顔も可愛いのにもったいないよな。

 こちらを睨みながら狼の背中の毛をむしっている。

 狼は毛が抜けるごとに泣くような声を漏らすのがかわいそうだ。


「えーと、マリル。さっき、最初のオーガを仕留めるときにこの棒が話しかけてきたんだ。で、タイミングよく伸びてオーガを仕留めたんだよ。その時の棒の操作には僕の意思は一切なかった」

「そう、そんなに便利な棒なら、ぼっちのレティに返すといいわ」

「その棒は、リュートさんにさし上げたものですわ。あなた、なに言ってるの」

「それだけ便利だったら、ぼっちがこじれてクモの巣張った下水ゲスイ管に棒を突っ込んで掃除するといいわ。スッキリすれば少しは落ち着くかもよ」

「な、なんですって?! ゲスイ管?! 下品、下劣、バカ、あほ、死ね○×△□、ピー、DQN、くぁwせdrftgyふじこlp」


 あ、レティーが壊れた。

 やべーな、また、そういう流れかよ。


 もう2人はほっといて。

 道の向こう、空と大地の地平線上に明かりが見えてくる。

 瞬いて見えるのは焚き火か、かがり火か。


 マリルとレティは狼にまたがったまま並んでぎゃーぎゃー仲良くケンカしている。

 口喧嘩を継続しつつ、お互いの狼の脇腹を足でガシガシ蹴っている。

 あれだけ勇ましかった巨大な狼たちは、いまではとばっちり受けて嘆いているように見えた。


「明かりが見えてきたけど、あそこがオアシスなのかな」


 2人はケンカをやめて、前をみる。


「そうね、あれがオアシスの明かりのようね」


 僕とケモミミ娘のシルバーはもくもくと、マリルとレティはケンカを再開しながらオアシスに向かった。





下品で駄文な作品にお付き合いいただきありがとうございます。

貴重な時間を割いて読んでくださるかたに感謝です。


不定期掲載でひっそりと連載を考えてます。


R15保険をかけつつ、お叱り受けない程度に内容を精査して掲載いますが、そこはひとりよがりのアマチュアなんでどうか、生暖かい目で見て頂けると、作者は悶絶して喜びます。


誤字脱字とかもご指摘頂くと、全身全霊全裸で修正に当たらせていただきます。






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