最後の話
僕と秋は架の墓を造る予定の場所に二人で向かった。凛子はもうあっちにいるそうだ。
架の思い出が詰まった箱は、最初は僕が持っていたけど結構重たくて、途中から秋が持ってくれた。
その場所は、前に僕が一人で来たときとは違う空気が漂っていた。
それは僕の気持ちが良い方に傾いたからだけど、理由はもう一つあった。
空いた穴のもう半周に、花が植えられている。
青、または赤やオレンジ色の花だった。ピンク色の花も一つあった。メイティンという花で、僕が頼んで入れてもらったものだ。
その花の全てが、全て上を向いていた。凛子は土で汚れた手を洗い、枯れた花を取っていた。
「そんじゃ、埋めるか…翔。」
久しぶりに呼ばれた名前で、僕は心臓が強く深く鳴るのを感じた。
飛翔の翔でかける。漢字は違うけど、読みは架と同じ名前。だから秋は、今まで僕のことを名前で呼ばなかった。ややこしいから。
秋を見ると、こっちを見て笑ってた。凛子も笑って、僕も笑った。架がいなくなっても僕らはなんも変わらない。馬鹿で話好きで、腕時計を右手につける三人のままだ。
僕は箱を丁寧に穴に入れた。入れたというより置いたに近い。ポケットの中に入っていた手紙を、その穴の中に放り込む。秋と凛子も同じことをして、軍手をした秋が麻袋に入っていた土をその上から注いだ。
ただ花が丸く植えられているだけになったその場所に、凛子が「架の墓」と書かれた木板を刺した。いつものように綺麗な字だった。
僕らは無言で一連の作業をして、無言で手を合わせた。
架がいるような気がして目をあけると、そこには秋と凛子と僕しかいなかった。もう一度目をつぶる。そこにも架はいなかった。
架。僕らは架がいない寂しさを埋める逃げ場を作りました。
素敵な場所なので、よかったら架も遊びに来てください。
心の中でそうつぶやいた。目をあけると、そこには秋と凛子がいる。架はいない。
代わりに、僕が頼んで入れてもらったメイティンが誇らしげに風に揺られていた。
架は、僕らに悲しみを残さずに逝った。だから僕たちも悲しまないように、架を悲しませないように笑った。




