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アクマで恋してる

悪魔リリムこと氷雨梨々は語る

作者: 時雨瑠奈

 ※このお話は「アクマで恋してる」の

スピンオフです。ネタバレ情報もあるので、

まだ未読の方は見てからの方がいいと思い

ます。



 私の名前はリリム。こんな事を突然言ったら

おかしい女だと思われるかもしれないが、実は

私は悪魔だ。

 またの名前は、氷雨梨々(ひさめりり)

人間に化けている時はそっちの名前で生活して

いる。

 私が化ける人間は日本人なため、そっちの名

前の方が怪しまれなくて済むのだ。

 私は、人間界が大好きである。人間界には、

美味しい食べ物がたくさんあるからだ。

 もちろん私は魔界育ちであるので魔界の食べ

物も嫌いではないが、人間界の食べ物には圧倒

的に劣る。

 愛しい妹リリンや、リリス母様やルシファー

父様、そして他の姉妹達にもたまに土産として

持って行くと喜ばれる。

 特に好きなのは麻婆豆腐とかいう辛い食べ物

だ。

 初めて食べた時は舌を火傷してしまったが、

一口食べたらもう止まらなくて何杯もおかわり

してしまった。

 熱くて辛くて美味しくて、それからは何度も

人間に行っては麻婆豆腐を食べてしまう。

 豆板醤とかいう辛い調味料と、豆腐と呼ばれ

る白い物体、細かくされた肉などが入っている

だけの料理のはずなのだが、これがたまらず美

味いのだ。

 美味しいのはそれだけではない。

夏には、口に入れるとすぐにとろけてしまう

アイスとかいう食べ物が売られているのだ。

 冬に温かい所で食べるのもオツなのだが(と

リリン以外の姉妹の前で言ったら人間臭くなっ

て来たわねと笑われてしまった)。

 私は辛い物が大好きだが、甘い物ももちろん

大好きだ。

 勢い良く食べ過ぎると頭が痛くなるが、かき

氷なる物も気に入っている。

 氷を削ってシロップという甘い物をかけた甘

味だ。

 それになりより、私を誘惑して離さないのは

チョコレートだ。

 見た目は茶色の塊で妙で食べるのに勇気がい

る代物なのだが、甘くてすぐに口の中でとろけ

てしまう。

 人間の娘がどこそこのチョコレートという物

が美味しいと言っているのを聞いて買いに行っ

てハマってしまった。

 物にもよるが、凍らせておいたりするとカリ

ッと口の中で砕けるのもまたたまらない。

 まだまだ人間界には美味しい食べ物があるの

だが、食べ物の事だけを語るのも私が食い意地

が張っているみたいで嫌なのでもう一つ私が魅

入られて仕方がない物を紹介しよう――。



 それは、書物――つまり本である。

人間界には膨大な量の書物が収められる建物が

あるのだ。図書館と言うらしい。

 ライトノベルと呼ばれる書き方は多少読みに

くかったりもするが面白い書物、難しい『漢字』

と言う物がたくさん並べられた絵の少ない書物、

子供向けと思われる絵がたくさんの書物、人間

界には本当にたくさんの書物がある。

 ――思えば、我が大事な愛しい妹リリンを奪

った……この言い方はよくないな。

 妹想いが過ぎるという自覚はあるのだが、

ついリリンを想うと彼に辛く当たってしまう。

 言い直そう。我が大事な愛しいリリンを射止

めた幸せな男、大森悠と会ったのも本がきっか

けだった。

 リリンが彼と会う前に、すでに私は彼と対面

を果たしていたのだ。

 その日、私は歩きながら本を読んでいて人間

の男とぶつかってしまった。

 もちろんそれはこっちに落ち度がある。

申し訳ないと謝ったのだが、彼らは「人にぶつ

かっておいてそれで済むと思ってるのか!?」

とか、「お姉ちゃん美人だな、俺らと遊ぼうぜ」

とかいかにも頭の悪そうな台詞を吐きやがったの

だった。

 おっと言葉が悪いな、これでは母様に怒られて

しまう。言い直そう。

 台詞を言ってきたのである。もちろん私は悪魔

だから、こんな人間の男二人はすぐにでも一捻り

に出来る。

 しかし、人間の世界には「傷害罪」という法律

が存在するらしいので私はどうするかと悩んだ。

 そんな時、大森が私の前に現れたのだ。

男達はちょっと柄が悪く、誰も私を助けようとは

しなかった。

 そんな中、お人よしにも私を助けようとしたの

が大森悠だったのだ。

 彼はいかにも弱弱しいというか、ケンカに強そ

うではなかった。

「やめてください、その人嫌がっているじゃない

ですか」

「うるせえ!」

「うわっ!」

 ……案の定、大森悠は男の一人に殴られ吹っ飛

ばされて尻餅をついてしまった。

 もう一人も彼を殴ろうとしたので、腕を掴んで

止める。

 この状況なら「正当防衛」という物が通用する

かもしれないと思った私は、すぐに彼らを叩きの

めしたのだった――。


「おい、大丈夫か?」

「ううっ……」

 やられてしまったとはいえ、私を助けようとし

た事は事実。

 私は公園まで彼を担ぎあげると、ベンチという

椅子のような物に寝かせてハンカチを濡らして頭

につけてやった。

 冷たさに彼が跳ね起き、驚いたように私を見る。

「あ、あの、ひょっとして、あなたが僕を運んで

くれたんですか?」

「ああ、そうだが」

「す、すみません。逆に助けられてしまって」

 妙に恐縮した様子に私は首をかしげたが、水

たまりにたまたま自分の顔が映り思わずああ、と

思った。

 私は彼と同じような年齢の姿ではなく、今は

『悪魔リリム』としての姿となっていたのだ。

 ――つまり、私は彼に大人の女性だと思われて

いるのかもしれない。まあ年齢的には彼より遥

かに年上なんだろうけど。

 そういえばさっき大家さんに家賃を払っていた

事を思い出した。

 普段は高校生くらいの女の子の姿を取っている

が、大家さんと対面する時は大人の姿になるよう

にしている。

「別に構わない。あなたが私を助けようとしてく

れたのは事実だし、あなた以外には誰も助けよう

ともしなかったんだし」

 私は彼にそう言ったけれど、彼はその言葉を聞

いているのかいないのか、私が手に持っている本

に気を取られているようだった。

 私が視線を向けると、恥ずかしそうに目をそら

す。

「あ、あのその本って……」

「『悪魔とカタリナ』だけど……」

「それよく借りれましたね、人気でいつも借りら

れてるんですよ」

「君も本が好きなのか?」

「はい!」

 その時の彼の嬉しそうな様子を私は今も覚えて

いる。

 つまり、リリンとの事を覗けば、私は大森悠の

事を結構気に入っているのだと思う。

 私と彼の共通点は本が好きという事なのだ――。



 大森悠という男は、まあまあいい奴である。

私の事を助けようとはしてくれたんだし、本の趣味

も私と合う。食の趣味に関しては、奴は甘い物が嫌

いなので合うとも言えないのだが。

 一度、リリンがあいつに接触する前にあいつの学

校に潜入していた時、チョコレート(もちろん図書

室の外でだ)を分けてやろうとしたら半泣きで「い、

いいです!」と言われた事がある。

 本当に甘い物が苦手らしい大森は。辛い物は大好

きらしいので、たまに情報を交換し合った事もある。

 潜入した学校という名前の建物にもたくさんの本が

収容された図書館の簡易版でもある図書室という部屋

があった。

 私は図書委員という役割になる事を決めたのも、休

み時間はいつでも図書室にいられるという下心からで

ある事を認めよう。

 愛しい妹、リリンが無事に過ごせるかの確認だけだ

ったつもりなのだけれど、私は図書室の本にすっかり

夢中になってしまっていた。

 そこで、私は大森悠と再会したのだ。

まあ大森はあの時助けた女性が私だとは夢にも思って

ないだろうけどな。

 私が厳しい発言をしようとも、リリンの事で辛く当

たっても、あいつは怯む様子もなく「氷雨先輩、氷雨

先輩」と何故か私を慕って来た。

 私のどこが気に入ったのかはリリンと交際している

今になっても分かっていない。

 また食べ物の話にはなるが、この学校の学食と呼ば

れるレストランみたいな場所の麻婆豆腐がまた辛くて

辛くて美味かった。

 ご飯とみそ汁と呼ばれる物が一緒になった定食とや

らがおすすめである。

 購買という売り場では菓子パンと呼ばれる甘いパン

や、アイスなども売っていてさらに私は学校での生活

に夢中になった。

 そこで私は焼きそばやコロッケはパンにも合うと知

ったのだ。

 そんな時、リリンが人間界へとやってきて大森悠と

接触したのだった――。


「――大森っ!」

 私が怒鳴ると彼は一瞬びくっとなったようだが、振

り向いて私に向き直った。

 隣に妹リリンを見つけた私は、つい怒鳴ってしまっ

たのである。

「お前、こんなところにいたのか! ――全く、本を

忘れていたぞ。貸出し手続きが終わった本を置いてい

くなんてお前は」

「あ、すみません、氷雨先輩。わざわざ持ってきてい

ただいてありがとうございます」

 私が理不尽にも怒鳴りたてたのにも関わらず、大森

はすみませんと謝りしかも持ってきた事に礼さえ言っ

た。

 貸出手続の終わった本を忘れたというだけで、怒鳴

る必要など全くなかったのだが。

 全く怒る様子のない彼に少し胸が痛んだというのは

愛しい妹にも内緒の事実だ。

 今では、多少……いやかなり悪い事をしたとは思っ

ている。

 純粋なリリンは私を姉リリムだとは全く疑わず、大

森の先輩だと信じたようだった。

 そう、彼女は悪魔にしておくのが可愛そうなくらい

純粋なのだ。

 だから、今は人間になって本当によかったのだと心

から思っている。

 魔界に彼女がもう戻って来ないと言うのが寂しいが。

大森がリリンを親戚の娘だと称したので、私はその設定

をもらってリリンを転校生であると校長達に魔法をかけ

て信じ込ませた。

 校長も、悠の担任であるオネエ教師――郷田聡も幸い

魔法が効きにくい体質ではなかったようだ――。


 そんな大森だが、最初はリリンではなく、城崎日向きのさきひなた

というあいつの一個上の女性が好きだったようだった。

 彼女も図書委員なのでよく顔を見合わせていた。

「日向先輩、今日もよろしくお願いしますね」

 城崎はいつもにこにこしている優しい少女だった。

リリンの方が可愛いが、そこそこに美少女であり大森

が好きと言うのも分かるかもしれないと思われる性格

をしていた。

 現に私は彼女を気に入っていたし、リリンも最初は

大森の事が好きではないみたいだったしな。

 リリンは大森と使い魔の契約をするために彼と城崎

を結び付けようと奮闘していた。

 なので、彼女の親友である清水実里しみずみのりに大森

がよく怒られているのをこっそり見ていた。

「大森、てめえ――っ!」と清水実里はよく叫んでい

たのを今でも覚えている。

 清水実里は城崎とはかなり仲がいいらしいが、髪を

染めてたり真面目そうな城崎とは違う性格の子だった。

 私と同じ男勝りでもあるし、彼女もライトノベルと

呼ばれる書籍だけは読んでたので私も少しだけ仲良く

していた。

 実は、私は城崎と付き合っている男性、月島翔真つきしましょうま

とクラスメイトだったし彼女が大森を受け入れない

事は知っていたのだが、リリンにも大森にも言わ

なかった。

 ……いじわるをしていた訳ではないぞ? そこ

まで教えてしまったら二人のためにならないと思

ったんだ。

 まあ二つも年が違う月島と大森を比べるのは気

の毒かもしれないが、あいつは優しくて真面目で

女の子にモテる大人な高校生だった――。



 しばらくして、大森とリリンはその事を知る事

となった。

 しかし、我が妹は何を思ったか自分の魔力を利

用して儀式を行おうとした。

 まあ悔しいが大森の事が本気で好きという事だ

ったんだろうな。

 私は母様に邪魔をしてはならないと言われてい

たので見ている事しか出来なかった。

 あの二人は気づいていないだろうが、私はリリン

がキマイラやオルトロスを召喚した時も、大森が

リリンを探していた時も、キマイラが大森に協力

した時も、リリンが無理をして儀式を行うとした時

も、リリンが消えかかっていた時も、けしからん事

に大森とリリンが抱き合っていた時も、こっそり

のぞいていたのだった。

 ――デバガメとか言うなよ? 心配だったんだ。

途中大森がどうしたらいいのかと迷っていた時が

あったが、そこにたまたま出くわしたのが彼の友達

の菅野栞太だった。

 私としては彼はチャラく軽い男だという印象だった

のだが、その時は毅然とした様子であいつに自転車を

貸し、あいつの背中を叩いて(比喩で本当にぶっ叩い

たわけじゃないが)送り出したのだった。

 結構いい男だったのかもしれないな彼も。

私の中で彼の印象がガラリと変わった瞬間の事だった。

 しかし、大森はリリンの行き先が分かっていなかっ

たので、そこだけは少しだけ手助けしてやる事にして私

はあいつの頭に直接呼びかけた。

〈リリンは、お前の家にいる。まだ儀式を続行しようと

している、早く行ってやれ――大森悠!〉

 大森はそれを言ったのが誰かは分からなかったようだ

が真っ直ぐ家へと帰り、消滅しかけていたリリンを抱き

しめこう言ったのだった。

「消えるな! 消えないでくれよ、リリン! 僕は、お

前にまだ言いたい事があるんだ! 使い魔にでもなんで

もなってやる! 僕はお前の事が好きなんだ!だから、

だから消えないでくれ!」

 私的にはまだまだ人間として未熟な奴だとは思ってい

るが、このセリフはかなり評価してもいいと思っている。

 リリンを救ったのはあいつなのだし。

いろいろな事があった訳だが、何が一番驚いたって。

 リリンが私と大森の仲を疑った事だった。我が妹なが

ら、どこをどう見たらそう見えたんだろうな。

 リリンが消えかけた事も驚きはしたけれど母様がそう

なるだろうといろいろ聞かされていたのでそれほどびっ

くりはしなかった。

 リリンは私がリリムだとは全く疑いもしなかったよう

で、私が元の姿に戻ると目を大きく見開いていた。

 大森も私がずっと前からいた先輩だと思っていたので

驚いたようだったしな。

 もちろん二人の事は心配ではあるが、いつまでも私も

妹べったりという訳にはいかない。

 母様も父様も彼を認めたようだし、まあ私も認めても

いいとは思っている訳だからそろそろリリンの手を離し

てもいい頃かなと思っている――。

 ようやくスピンオフが書けました。

短編を久しぶりに書いたのと、一人称が

久々だったのと、以前の作品「アクマで

恋してる!」を読み返していたのと、

別サイトの小説の投稿などで時間が

かかってしまいました。

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