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クリスタル・クロニクル  作者: 氷柱
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2 声

「はあっ……」


 通学鞄を持ったまま膝に手をつき、アズは乱れた息を吐き出して後ろを振り返る。


「ゆーずー!早く来ないと遅刻しちゃうよー!」


 左手でぱたぱたと手を振れば、自分の遥か遠く、きつい上り坂のあたりでひいひい言って必死に上っているユズが恨めしそうに睨んでくる。


「この……薄情者っ……!自分の登校時間削ってでもお姉ちゃんの世話してたあたしの時間返せ……」


 なにやらアズを呪っているかのような目つきだったので、冗談はこのくらいにしないと本当に嫌われてしまう。アズは苦笑して来た道を小走りで戻っていく。




 年子である妹、ユズとはたった二人きりの家族。母はユズが生まれてすぐに他界。父は男手ひとつで2人を育ててくれたが、アズの東高校の入学を待たずに疲労で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまった。

 2人を良い高校へ、良い大学へ……その一心で働きに働き、父は2人に贅沢さえしなければ生活していけるだけのお金を残して亡くなった。――それが、何よりも悲しかった。

 お金よりも、もっと家族として一緒にいる時間がほしかった。もっとたくさん愛情を注いでほしかった。けれど、それは今だから言えること。父が必死になって稼いでくれたお金は使わず、アズは本当に必要になった時にだけ使うと心に決めている。

 今は親戚の経営している小さなアパートを借りてユズとバイトをしながら2人で暮らしている。贅沢はない。けれど幸せだった。




「だいじょうぶ?」


「あたしもお姉ちゃんみたいに運動できればいいのになぁ……」


 腰を折って尋ねれば、ユズは舗装道路にぺたんと座り込んでしまう。


「運動できても勉強できないもん。ユズのほうが羨ましいよ」


「頭いいだけじゃ何も出来ないって。それに比べてお姉ちゃんは凄いよね。ついこの間だって電車で痴漢に合ってた女の人助けるだけじゃなくて、逃げた男の人まで追いかけてひっ倒して捕まえちゃうんだから」


「でも友達に言ったら「女気ねぇ~!」とか笑われたよ?」


「女気なんかなくても警察から表彰してもらったんだから胸張ればいいじゃん」


 それにもとからお姉ちゃんに女気なんてないしね、と言われる始末。……まあ確かに女気はほとんどないような気もしないでもない……かな?


「まああたしは運動神経いいだけが取り柄ですから」


 ふふん、と腰に手を当ててふんぞり返ってみると、「そう威張られるとなんか褒めなきゃよかったって後悔する」と半眼で睨まれた。 


「風がきもちいいねー……」


山から吹いてくる風に、アズのセミロングの髪がさらさらと揺れる。坂の下を見下ろせば、何もない田舎だけど、のどかで、静かで、都会にはないものがたくさんある小さな町がある。


 高校を卒業したら、この町を出て行かなければならない。


 父は2人が大学まで行けるように、と言っていたが、アズは高校を卒業したら就職しようと考えている。これは、まだユズにも話していないこと。

 この町は人口もそれほど多くないし、働き口がたくさんあるわけでもない。就職するならば市外か県外、と相談した進路の先生に言われた。


 ユズに言ったらなんて言うかな……。

 ちらっと座っているユズを盗み見する。――きっと、「あたしを置いて行くなんてお姉ちゃんの薄情者っ!」とか言うに違いない。

 でも、せめてユズだけでも大学に行かせてあげたかった。アズよりも勉強が出来て、先生達からの人望も厚い。本人が大学へ行くことを望めば、アズは一年間一生懸命に働いて、お父さんのお金と合わせて大学へ行かせてあげようと心に決めていた。


 あたしにもできること、あるよね……お父さん。


 なんとなく父がいそうな空を仰いだ、そのときだった。















――アズ……














「――え?」


 不意に呼ばれた気がして隣に座っているユズを見下ろす。


「どうしたの?」


「え、今呼んだよね?」


「ううん、あたし何も言ってないよ」


「……でも今」














――アズ














 また聞こえた。


「え、ついに幻聴まで聞こえるようになったとか言わないでね?」


 そわそわと辺りを見回しているアズに心配したような声をかけるも、ユズも耳を澄ます。……が、もちろん何も聞こえない。


「誰かの……たぶん女の人の声だ。あたしを呼んでるの」


「女の人ってだれ――」


 ユズがアズに背を向けた瞬間だった。


 突然ユズの話し声が遠のいていく。語尾がゆっくりと消えていき、そこでアズははっとする。


 目の錯覚かと思った。


 ユズだけじゃない。アズの視界に入っているすべての景色が乳白色に染まってぼやけていく。


「……え、やだっ――ユズ!」


 あわてて妹の名を呼ぶも、もはやアズの声も届かなくなってしまったのか、ユズは振り返ることなく景色と一緒にぼやけて消えていく。


「ユズ!!」


 必死に伸ばした自分の手ははっきりして見えるのに、目の前のユズは景色と一緒になって乳白色に交じって……



「アズ」



 凛とした女性の声を合図に目の前から消えてしまった。

前置き長くてすみません;

異世界トリップは次か次のお話で行けると思います^^


どうぞお付き合い下さいませ。

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