プロローグ
それは、この世界であるような、この世界ではないような、とても不思議な場所だった。
限りなく広がる美しい草原。なだらかな傾斜がゆったりと続いていて遠くまでは見えないが、果て無く続いているようには見えない不思議な空間。
空はなく、明るい乳白色色の光が優しくあたりを包んでいる。生き物の気配もない。動く影もない。虫も鳥も飛んでいない。
この空間に唯一在る物と言えば、草原の中に悠然と佇む一本の大きな樹だけ。その樹は巨木と言っては過言ではないほどとても大きい。太く立派な幹にはコケや蔓が生え、その樹の年代を物語らせ、その幹から大きく四方八方に枝分かれした枝からは新緑の葉が風とともにさざめく。
圧巻。
樹の迫力はその一言に尽きる。しかし、もし人がこの樹を見れば「なつかしい」と思ってしまうかもしれない。
この樹は、この世界の生命の源なのだから。
そんな樹の元にゆっくりと上空から近づいてくる影があった。
それは影というにはあまりにも眩しく、そしてあまりにも美しい。
樹に近づくにつれ、影は光へと色を変え、そしてゆっくりと形を変えていく。
静かな羽音ととにも樹の元へ降り立った光は、とても美しい白龍へと姿を変えていた。
鳥によく似た羽毛に包まれた3対の翼をゆっくりとたたみ、光の加減によって白銀にも純白にも見える体毛を風になびかせ、白龍はそっと樹を見上げる。何か物言いたげに黄金色の双眸を細めるも、長く息を吐き出し、白龍は体を丸めて樹の根本に寄り添う。
ついにこの時がやってきた。
もう年百年、この瞬間を待ち望んでいたことか。白龍はゆっくりと瞼を閉じていく。
樹にすり寄り、耳を澄ませる。
…とても暖かくて、息づく脈の音が静かに聞こえる。それは、これから肉体を離れ、精神だけでかの異世界へと飛び立つ白龍を暖かく包み込んでくれた。
…母なる世界樹よ。私に力を…
白龍の額に優しい碧い光が瞬き、白龍の精神はゆっくりとこの世界を離れていった。
初めまして。小説初投稿になります、氷柱と申します。
現代よりもファンタジーな世界を愛してやまない妄想を文章に書き綴り、日々ちょっとずつ更新していけたらと思います^^
ド素人で指摘されることも多いと思いますが、誰かの目に留まり、感想なんかを頂けると励みになります…。