13 覚醒
『やっぱりゼノの言うとおり。ゾイスの奴、どうやらエントランス付近に隠れて張り込んでたみたい。今ウィルから連絡があったの』
「……ったく。ホントいやらしい奴だな。……リオン、そっちの状況を簡潔に説明してくれ」
指令室から資料室へ向かう途中。
ゼノは自身のクリスタルである巨大な弓――聖なる追弓を出現させたまま足早に廊下を歩いていた。アリスや他のメンバーがいる指令室にもシャドウは居たが、アリスの言うとおり、手練れのクリスタルマスターがいたので問題なかった。
セピア・ガーデンのすべての管理を国から任されている団長足る者、ガーデン内の隅々まで状況を把握しておく必要がある。……今の状況が状況なだけに、だからこそ冷静に対処しなければならない。
エントランスには今、尋問し損ねたノワールの1人――ゾイスがクラウスと対峙しているという報告が入っている。その場には結界に避難している大勢の一般人と非戦闘員がいるのだが……結界内にいたとしても安心はできない。
そして何より、そこにはアズがいる。
まだクリスタルを出せないであろう彼女は、不幸にもゾイスの標的になってしまった。クリスタルが出せないと分かれば、奴は嬉々としてセイレーンであるアズを殺しかねない。
それでもクラウスがゾイスと対峙しているならば、まだ勝機はある。
ゼノは自分にそう言い聞かせ、最後の確認先である監獄塔の看守長に連絡を取っていた。
『こっちはまったく問題ないね。なにせあたしと姉さんが居るんだもの。……あ、でもちょこっとだけ問題が』
「なんだ?」
『……この騒ぎに乗じて逃げ出した脱獄者が今まさに姉さんに殺されちゃいそうなんだけど、止めた方がいい?』
「当たり前だ!即刻止めろ!」
血相を変えて通信機に向かって怒鳴ると『だよね、あははは……』という疲れたような返答が返ってくる。ゼノも眉間に手を当てて深く溜息。
怒鳴っておきながらも、あんな狂気的な姉をもっているリオンについ同情してしまう。
今更ながら、そういえばリオンの声の後ろで何かを鞭打つような音と甲高い女性の笑う声が聞こえていたような……。思い直して身震いした。
『姉さん!殺しちゃ駄目だってば!それ以上やったら本当に死んじゃうから!』
『えー?だぁーいじょうぶよぉ。このくらいじゃ死なないわよ、タフだものねぇ?』
リオンの声の向こうに、くぐもって聞こえるもう一つの声。猫なで声のような、甘ったるいようなその話し方の後に、鞭打つ音と男性の断末魔のような悲鳴。――ゼノは顔をしかめてイヤホンを耳から遠ざけた。
『あれだけ脱獄しちゃだーめ♡って言ったのにぃ。先に約束破ったこの豚野郎がいけないのよぉ?』
そう言って、また鞭打つ音と男性の断末魔のような悲鳴が一緒になって聞こえてくる。
本日何度目になるかも分からないほどついた溜息をまた漏らし、ゼノはイヤホンを耳に付け直したところで突然通信機にノイズが混じった。
『――ノ、ゼノ、ゼノ!聞こえる?応答してちょうだい!』
アリスの切羽詰ったような声が横から割り込む。驚いて「どうした!?」と答えると、信じられない話が入ってきた。
『たった今エントランスにいるジークから連絡があって……ハンナがっ……ハンナがゾイスに心を開かれてしまったって!』
「なっ……!」
『あの子のクリスタルを悪用されてしまっては不味いわ!ゼノ――』
「ああ、分かってる!」
アリスの話を最後まで聞くことなく、ゼノは全力で走り出す。
前々からハンナの様子がおかしいということに気づいていながらも何もしてやれなかった自分に責任がある。ゼノはギリッと歯を噛みしめた。
自分自身に、そして自分のクリスタルに存在価値を見出せないでいたハンナ――もしかしたら、このガーデン内で一番の潜在能力を秘めているかもしれないというのに、彼女は自分自身の居場所を見つけられないでいた。
「(間に合ってくれ――!)」
あまりにも走ることに必死だったせいで、窓の外を横切った影に気づけなかった。
**
それは、とても悲しくて、辛くて、苦しくなるような音だった。
虚ろな表情のまま、ハンナは自身のクリスタル――幻想の竪琴を具現化させて静かに弦を弾いている。細く色白の指に弾かれるたび、幻想の竪琴はアズの心を沈み込ませるような悲しい旋律を奏で、戦意を奪っていく。
ゼノやクラウスのクリスタルはあんなにも優しげな青い輝きを放っていたというのに、ハンナの心のクリスタルは赤黒いもやを纏っている闇のような紫色になってしまった。これが、あのブレイクリスタルのせいだということは明らかだった。
音楽や楽器をほとんど知らないアズでも教科書の中でなら見たことはある弦楽器――ハープ。幻想の竪琴は片手で持って弦を弾くタイプのものではなく、椅子に座って奏でるという大きめのハープの形をしていた。種類や名前は全然分からないが、全長は目測で120、130センチほど。椅子とハープがくっ付いていて、ハンナが腰かけている椅子もクリスタルの一部のようだった。
「いい音出してくれるじゃねえか。見直したぜ」
聞き入るように目を閉じていたゾイスがうっとりとした口調で呟く。アズはハンナの奏でる音色にくらくらしながらゾイスを視界の横に捉える。
「こんなことならもっと早く口説くんだったな。〝お前にはノワールの方が向いてる〟ってな」
「何をくだらないことを……」
床に座り込んでしまったクラウスが苦しげに呻く。見れば、クラウスとジークだけでなく、ゾイスと媒体以外のすべての人々が床に座り込んでしまっている。床に手をついて項垂れている人、俯せに倒れこんで悶えている人、啜り泣いている人……。アズでさえも苦しくてうまく息ができない。
これが、ハンナのクリスタルの力……?
「くだらないことなんてねえさ。こんなに人の心を鷲掴みにできるんだ、相当のもんだろ?」
ゾイスがくっくっと嬉しそうに笑うと、ふいに頭上に影が落ちる。アズが驚いて見上げると、ガラス張りの天井に黒い影がもう一度横切り――、
耳を劈くような轟音と共に派手な音を立てて盛大に割れた。
「!?」
「お、来た来た」
アズと同じように天井を見上げていたゾイスが嬉しそうに笑う。飛散したガラスの破片が降って来ない場所に移動させられて見ていると、ヴェールに叩き落とされたあの灰色の竜が風圧を巻き起こしながらゾイスの目の前に降り立つ。
竜は鎌首をもたげ、アズを見るなり鋭い牙をむき出して「グルルルル……」と唸り声を上げた。
「そう急ぐな、ギルネ。こいつを上に運んだらお前の好きにさせてやる」
ぞっとするような事を言われて目を見開く。ゾイスはアズに絡み付いているシャドウに顎でしゃくって「乗せろ」と合図。途端に体を軽々と持ち上げられ、竜の背中に乗せられた。
「おっと。忘れてた」
竜に乗る途中の体勢のままゾイスが床にへばってクリスタルが消えてしまったクラウスに顔だけ向け、ヒラヒラと手を振った。
「お前らはそこで這いつくばって世界の終りを見てるといい。殺す所を見せられなくて残念だけど、ギルネの事を考えると室内より外の方がいいんでね。悪いな」
まったく悪いと思っていない口ぶりでそう言い、竜に乗り込んで飛び上がる。
「アズ……」
床に項垂れていたジークが苦しげに呟く。飛び立った竜はぐんぐん上に上り、無残に割れてしまった天井ガラスの穴をくぐり抜けて外へ出た。
暖かい風が、アズの頬を優しく撫でる。
この展開はなんなんだろう?
異世界へ来てすぐにあたしは殺されてしまうのだろうか。
いつもと変わらない青い空を仰ぎ、あまりにも非現実的な展開にアズは胸中で吐息した。
なんだかとても変な感じがする。本当に自分は死ぬのかとか、これは夢なんじゃないのか、とか。
世界はいつもと何も変わらないのに、自分は本当に死ぬのだろうか。殺されるのだろうか。
――それは、なんだか間違っているような気がして。
「よし、離せ」
シャドウの拘束が緩んだかと思うと背中を強く押され、
「ひゃっ――!」
竜から突き落とされて一転、奇跡的にもそんなに高い位置ではなかったのでどうにかうまく着地できた。
「ホントにお前、ただの女子高生かよ」
疑わしげに問われても言い返さず、アズは立ちあがって周りを見渡した。
白い床――というのは違っていて、手すりや椅子が設置されていることから、ここはセピア・ガーデン本殿の屋上だと思われる。ガラス天井は屋上だとガラス床になっていたらしい。……今は跡形もなく割れてしまっているけれど。
「眺めが良くて最後のひと時を過ごすにはもってこいだろ?よーく拝んどけよ、この醜くて腐りきった汚らしい世界をな」
竜が降り立ち、その背からゾイスがひらりと滑り降りる。
「グルルル……」
「ん?そうか、待ち切れないか。――じゃあ始めるか」
竜の背をぽんぽんと叩き、ゾイスはニヤリと笑った。
「恨むならお前を選んだセピアノスを恨みな、セイレーン」
そして、ゾイスが竜をぱん!と力強く叩いた。それを待っていたかのように竜は雄々しい雄たけびを上げて、地を蹴り一気に突進してきた。大きく開かれた口の中には鋭い牙がびっしりと生えている。
「――っ!」
いくらアズでもあの巨体を避けることはできない。しかし避けなければ確実に食い殺されてしまう――。
意を決して身を屈めた、その時だった。
『ちょぉっと待ったああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!』
聞き覚えのある声がどこからともなく聞こえ、アズだけでなくゾイスも一緒になってばっと辺りを見回す。
瞬間、
「ガアアアアァァッ!!」
「ギルネ!?」
竜が悲鳴を上げながら体当たりでも食らったように突然真横に吹っ飛び、アズの視界から消えてしまった。驚いて2、3秒放心してから竜の吹っ飛んだ方を見ると、鱗が擦れて摩擦が起き、白い大理石に灰色の線を引いて10メートルほどの所で伸びている竜の姿があった。
「は……?」
ゾイスは完全に理解できていないようだが、アズには分かっていた。こんな時、アズを助けてくれる相棒は――、
『ド三流が!今度こそ完全に再起不能にしてやる!』
アズの目の前の景色が揺らめき、ヴェールが姿を現した。翼を大きく広げてアズの傍に歩み寄ると、とても不機嫌そうに口を開いた。
『勝手にシンクロ切らないでよね。まったく何してんだか』
「あたしのせいじゃないよ」
むっつりむくれて答えると、『ま、それもそうだ』と言ってることがよくわからない返答。窮地で助けに来てくれたヴェールに思わず顔が綻ぶと、『ま、無事そうで何より』とヴェールもそっぽを向いてそんなことを言った。
「~っ!また出やがったな、セブンスドラゴンが」
『やっぱお前か。竜が三流なら飼い主も三流だな』
はっ、と鼻であざ笑うと、ゾイスの顔が見る見るうちに真っ赤になっていく。
「んだとコラァ!……おいギルネ、いつまで伸びてんだ!?リベンジかませ!」
ゾイスが叫ぶと伸びていたギルネが首を振りながらのっそりと起き上がる。『ちっ、タフな奴』とヴェールが舌打ちをするも、確かに耐久性が高い。ぴんぴんしている、というほどでもないが、これと言って深くダメージを与えられた様子でもない。
『あいつは俺が行く。アズはアズで頑張って』
「え?」
『……もう大丈夫でしょ?何があったんだか知らないけど、アズの心、すごく変わった』
「……」
ギルネが翼を広げて飛び立ったのを合図に、ヴェールも地を蹴って高く空へ舞い上がった。
空で激しくぶつかり合う2頭の竜を見上げ、アズはそっと胸に手を当てる。
先ほどからいろいろと考えていた。
クリスタルの事、心の強さの事、想いの事、……そして、ハンナの事。
どういう事情があってかは分からない。けれど、ハンナはノワールに心の隙を作ってしまうくらいに追い込まれていた。
自分は役に立たないと、誰も救えないと自分で自分の心に蓋をして、誰にも話せないでいたのだろうか。
そこを付け込まれて、ハンナの心は無理やり開けられてしまった。
ハンナが人々を苦しめる音色を奏でている様を見て、こんなの絶対に間違ってると思った。
こんなの、ハンナがしたがっていたことじゃない――。
――アズ
目を閉じると、頭の中で囁くようなセピアノスの声が聞こえた。
胸がじんわりと暖かくなる。
――その想いが、貴女の力となる
胸の前で右手をゆっくりと握りしめる。
今、心の底からハンナを助けたい、力になりたい、と思っている。
「これが――」
この想いが。
〝誰かを助けたい〟と思う、この想いが。
――貴女の力となるのです
「――――うん。行こう、セピアノス」
――今の貴女なら大丈夫……。共に、行きましょう
すっと目を開け、目の前にいるゾイスをまっすぐに見据え、
「天翔けろ――戦場の女神」
胸からの溢れんばかりの光に包まれ、アズは両手を広げて空を仰いだ。
大丈夫、あたしなら出来る。絶対に救える。
想いが力に変わるこの世界なら、絶対にあたしは負けない。
誰かを助け、守り、癒せるだけの力があれば、どんな人だって必ず助けられる。
助けてみせる――。
**
眼下に広がる光景に、思わず言葉を失った。
エントランスに張られている結界の中で人々が地にひれ伏し、苦しそうに悶え苦しんでいる。あのクラウスやジークでさえも戦意を失ってしまったようで、クリスタルは消えてしまっていた。
4階にいるゼノでさえ、どうにか耐えていられる状態だった。
「ハンナ……」
結界の境界線の手前で、滅多にゼノたちの前に出すことがなかった彼女のクリスタル、幻想の竪琴を奏で、人々の心を音色で奪っていく。
今すぐにでも駆けつけたい衝動を必死で押さえ、屋上から溢れる光に導かれるまま一気に階段を駆け上がって屋上に出た。
ドアを開け放って前につんのめりながらどうにか踏みとどまって目の当たりにした光景に、ゼノはただ目を見開くばかり。
セピア・ガーデンを包み込むほどに溢れていた光が一気に凝縮し、弾けて光の粒子となって空に舞い上がる。その光のあった場所に、1人の少女が佇んでいた。
3対の、美しくも神々しい純白の翼をその背に生やして。
「……」
言葉が出ない。というか、どう言葉に表していいのかわからない。ゼノは固まったまま覚醒したアズを見つめた。
「……んだよ、こんな時に覚醒するって……そんなの有りかよ」
引きつった笑みを浮かべているゾイスが呟く。
その声が聞こえたのか、閉じられていたアズの目が開かれた。
竜のように瞳孔が縦に割れた、黄金色に輝く瞳。
以前一度だけ見たセピアノスの双眸とまったく同じだった。
「――ちっ!」
ゾイスが盛大に舌打ちをして胸に手を当てる。しかし間髪入れずにアズが動き、腕をクロスさせて背に生えている1対の翼に手を当て――掴んで引き抜いた。
光と共に引き抜かれた翼は双剣へと姿を変え、アズの両手に収まる。
翼を象った装飾が美しい、とても長い双剣だった。
「――降せ!」
ゾイスの胸から赤い光が輝き、目の前に巨大な斧として具現化した。柄を掴んで振りかぶり、双剣を構えて一気に距離を詰めてきたアズに向かって勢いよく振り下ろす。
しかし、アズは双剣を目の前でクロスさせて振り下ろされた斧を見事に受け止める。
「「え!?」」
ゾイスとゼノがそろって驚きの声を上げ、振り下ろした張本人は焦った表情で斧に体重を加えてさらに押し付ける。しかしアズはびくともせずに黄金色の双眸を細め、細い腕に力を入れてゾイスの斧を力で弾き返した。
「おわっ!」
弾かれた斧に体を持って行かれたせいで後ろにたたらを踏んで隙だらけになったゾイスの鳩尾に、アズは見ているゼノが恐ろしくなるくらいの無表情で何の躊躇なく鋭い蹴りを食らわせた。
声にならない詰まった悲鳴をあげ、ゾイスは5、6メートルほど吹っ飛んで大理石に叩き付けられた。気絶したのか、吹っ飛ばされた拍子に手放した斧が赤い光と共に消え失せた。
「……」
あまりにもあっけない終わり方だった。
あんな細い腕のどこに、大人の男をも弾き返す力があるのか。
アズはしばらく気絶しているゾイスを無表情で見下ろしていたが、双剣を翼に戻すと踵を返してガラス床の方へと歩いていく。ゼノに気づいているのかいないのか定かではないが、アズはこちらを一度も見ることなく翼を広げてガラス床から飛び降りてゼノの視界から消えてしまった。
あれが、アズのクリスタルの力――。
速さも力強さも耐久性も、何もかもがずば抜けて高すぎる。それに、あの翼……1対が双剣になったということは、他の2対の翼も何らかの形状に変わるかもしれない。
強すぎる力は体に何らかの影響を及ぼしかねない――。
セイレーンとしての覚醒を喜ぶべきなのに、とても楽観視できない。
「……」
顎に手を当ててそんなことを考えていると、何やら頭上から大きなものが降ってくるような「ヒュルルルルル……」という風を切る音が聞こえて、
「ん?」
と空を仰いだ瞬間、ゼノは頭上から降ってくる黒い影がどんどん大きくなっていく様に顔を真っ青にし、
「どわあああぁぁぁっ!」
全力で緊急回避した。
ずどおおんっ!という屋上を揺るがすほどの震動と共に大理石を粉々に吹き飛ばし、落ちてきたそれを見て愕然。ゾイスと共にセピア・ガーデンに連れてきたゾイスの愛竜、ギルネだった。
『ありゃ。下にいたの?よく生きてたね』
みっともなく尻餅をついたまま空を見上げると、風圧を巻き上げながらゆっくりとヴェールが降りてきた。体中に細かな傷があることから、ギルネと戦っていたことが見て取れる。ゼノは立ち上がるのもそこそこにヴェールに駆け寄って――彼の顔を見てぎょっとした。
口の周りに、べっとりと大量の血がこびりついていた。
「お前こそ怪我しているじゃないか!」
『こんなの怪我のうちに入らないし、ほとんどが返り血だから。噛みつきまくってたらこんなになっちゃった』
ふとギルネを見れば、体のあちこちで鱗が無残にも剥がされ、肉も食いちぎられている。だから口が血まみれだったのか。
「殺したのか?」
『いや?殺すとアズがうるさいと思ってとどめは刺してないよ。……それよりアズは?』
キョロキョロと辺りを見回してヴェール。
ゼノは割れているガラス床を指差し、「降りて行った」と付け足した。
『ふうん……。ま、俺の出番はここまでかな』
「お前は知ってたのか?アズの覚醒が近いって」
『まあね。セピアノスの気配が大きくなってたからそうじゃないかなって。さすがは俺の相棒だよね』
「……はは、そうだな」
苦笑して、ゼノはガラス床を見つめる。
あとは、ハンナの心を取り戻すだけ――。
「……う、げほっ」
後ろでゾイスが動く気配がし、ゼノは静かに聖なる追弓を具現化させた。