転生の輪…②
「――ィ。オイ、起きんかキリア」
ゆさゆさと身体を揺らすそれが、回数を超え、机でうつ伏せになっているキリアを叩き始めた。微睡みの中にいる当人にはそれが至極気持ちよかったのだろう。叩かれる度にヨダレがこぼれる。
「――ん…ん?」
漸くしてから反応という反応が返ってきた。眠気が醒めたのかキリアが慌ててヨダレを拭うと頭を下げた。
「スイマセンでした…」
「キリアにしては珍しいのぉ。ワシの授業はご覧の通り…」
教員の目線の先には机にうつ伏せた姿が死屍累々と広がる。
「だからといって見逃すわけにはイカン。特にいつも授業を受けているお前とかは貴重なんだよ」
ホッホッホッと年寄りの笑い方をした。
「そ、そうですか…。ホントすいませんでした」
「まぁ受けても受けなくても、最終的には必要なくなるんだから気にせんでもよい」
最終的には必要がなくなる――どういう意味だろうか?
「就職先では使わないって事…でしょうか」
「ホッホッホッ」
「はぁ…」
キリアが生返事で返すと教員が着席を促す。席に着くと反省するついでにふと違う事も考えた。
あれ。いつの間に寝ていたんだろう?
記憶を手繰る。
思えば始業の鐘を聞いてから、ちょっと授業を受けてから朗読を指名された…と、ここまでは覚えている。
「…」
手の上で器用にペンを回す。なんとなく記憶が戻ってきたような気がしてきた。
そうだ、萌留と目があってからの記憶がない。多分僕はここで落ちたようだ。
「う〜ん…分からない」
そう。なぜ寝たのか分からない。特別寝てない理由もないし、むしろ普段となんら変わらない生活をしている。
まぁもう起きてしまったのだから追求するはさておき、確か今は五時限目だ。次は錬磨の時間だったかな。間もなくして終業の鐘が鳴った。
「(修練服に着替えないと)」
いそいそと準備をしている最中、服を詰め込んでいたバックから修練服を取り出し上衣を脱ごうとした時だった。
「キリア君」
いつもの聞き慣れた声が頭の上から聞こえてきた。王生萌留だ。
「…」
なんともなく視線を避けてしまう。やっぱり“さっき”までの記憶が抑止しているようだ。
「な、なにかな。次は錬磨だよ早く着替えないと…」
「なに言ってるのよ?今日はこれで終わりだよ」
「え?だって今日は月−セレネ−の授業割でしょ」
「月って…今日は金−ディテ−よ」
「え?」
「え?って…ちょっと大丈夫?」
ちょっと待て。僕は確かに気だるい週始めをして、やっと終盤の錬磨の授業にこぎ着けたはずだ。
「あ、そうだそうだ!今日は18の金だったね」
「…15だよ。15の金。もうそこから可笑しいんじゃ本末転倒じゃない」
「ハハハ…15、ね」
15だって?どういうわけか僕の認識が可笑しいようだ。もし仮にこれが事実とするなら確かこの日は――
「メル…ちょっと」
そういうとキリアはメルの頭を抑え、机と同じ高さになり身を隠した。
「え?な、何かな何かな」
萌留の顔が瞬く間に上気する。刹那、勢いよく飛んできたボールが二人の頭をかすめ、窓にぶつかった。窓がミシッと渋い音を発てて割れた。
「…」
本来ならば僕の顔がとんでもないことになっているのだが…偶然だよ、な。
割れた窓を見てメルが呆けている。ディテ15はボールが飛んでくる日だった。原因は雷門徹。「わりぃわりぃ」とばつが悪そうな表情で入ってくるのは雷門徹だった。
「――ッ!」
雷門の声を聞いて慌てて立ち上がったメルが机を叩いて叫んだ。
「ちょっと雷門君!悪いじゃ済まないでしょ窓割れたんだよ!先生――」
全然理解出来ない。もしかしてさっきまで見ていた夢が関係しているのか?
「夢、夢…ゆめ」
あれ?なんだったっけ?思い出せない。まるで鍵を掛けられた宝箱のよえな感じだ。何か鍵−キッカケ−があれば飛び出すように、記憶がガタガタと頭の中を跳ね回っている。
だかしかしそれは暴れるだけで何も起きなかった。ただただ不快感だけを残してそれは消えてしまった。こうして今日のディテの15は幕を閉じた。
割れた窓は、暫定的に段ボールをガムテープで貼り付けた状態で、キリアの席の隣に佇む形となり、「せっかく景色が台無しだよ」とガッカリしたキリアは、翌週のセレネ18を迎える。




