神々の対話…③
「――なんだと?!もう一回言ってみろ」
声を荒くしているのはオーディンだった。フレイアからの突然の報告にそうならざるを得なかったのだ。その内容は…
「あの忌々しいロキをロストしました。いま彼は神界には居ません」
「ちっ!エオルクランスかっ」
「エオルクランスですが…どうやら封印もしくは破壊かされたでロキ共々、行方不明です。オーディン様、いかがいたしましょうか」
戦闘の女神と言われるフレイアがオーディンの“とある策”の指示を待っている。しかしながらオーディンはそれを下すには少しばかり躊躇していた。そんなオーディンを見て焦れたトールが声を高くオーディンの指示を急かす。
「オーディン!!今が最高神たる行動を示さねば、下神達にも事が知られてしまうぞ。それこそアースガルドが危うい!ここは――」
「ロキめ…この三竦みを利用して動いてくるとは大胆だな…」
肩肘を着いて眉間に皺を寄せていると、ふと向けた先にある金色で飾られた美しい廊下を、一人の青年が歩いてくるのが分かった。オーディンがそれだと気付くよりも先にフレイアが駆け寄る。
「フレイ兄さん!いつの間に帰って――」
「あぁ今しがた帰ったよ。ちょっとアルフヘイムに用事があったもんでね」
「フレイか。お前ならどうする、この状況」
金色の髪は兄妹のフレイアと同じく艶やかに輝き、痩身ながらも甲冑から覗く筋肉が強さを物語る。彼の姿は最も美しいと謳われるのが嘘ではないと分かる。それが豊穣の神・フレイなのだ。
「どうやら噂は本当のようですね。エインフレアと下神達が言ってましたよ。“そろそろラグナロクか”と」
フレイが少し悪い顔で笑うがオーディンはそれを咳払いで払う。
「ふん、言わせておけ。まだまだ先の話だ。奴らの酒の肴にでもしておれ。私は動かんよ」
「それでこそオーディン様」
飄々とし得意気に笑みを浮かべるフレイ。
「オーディン、決まったな。さてどうしましょうか、最高神・オーディン様」
トールがそれきたと調子ついた口調で指示を仰ぐ。
「ちっ…白々しい。お前はこうなる事を期待してたんだろ?」
「そりゃそうさ。なんで自ら進んで終焉にいかなきゃいけねぇんだよ。俺はもっと生きたいんだよ」
「…まぁ少数を割いてもスルトごときならイケるからな。要は誰が行くかだろうな」
「なら私が――」
「いやフレイア嬢はエインフレアどものお世話があるだろう。と、なれば戦術指南の兄さん、も゛ッ――」
トールの口から血が爛れ堕ちる。左胸を貫通する何かが剥き出しに晒される。
「はぁ〜い。喚ばれてなくても出てきましたよ、愛しのオーディン」
ズル…とトールの左胸からゆっくり引き抜いたのは彼の腕だった。
「ガハッ――ス、スルトだ…と」
血の気が引いたトールが地面に倒れる。
「貴様どうやって――」
「ヘイムダルの門が開いてたから来ちゃった☆」
スルトの悪びれた笑顔がオーディンを突き刺した。
「貴様!オーディン様に――」
「ノンノンノン♪ちょっと遊びにきただけ」
切りかかったフレイの剣―レバンティン―を難なくとかわすと、スルリとフレイの背後に回り頸元に牙を突き付ける。
「そんな怖い顔しないでよ☆僕は“中立”なんだから。ま、もっとも御大将はそう思ってらっしゃらないようだけど」
スルトの鋭い視線がオーディンを見据える。
「スルト…ラグナロクでも起こしにきたのか?」
オーディンが静かにだけれども有無を言わせない迫力で言う。
「まさか。起こしてもいいけど、僕と君じゃ役者が違うでしょ。門が開いてたと言ったけど、ヘイムダルにはちゃんと“挨拶”をしてきた訳だし、おとがめを――」
「貴様ぁーー!」
「…今度はお嬢ちゃんがお相手かい?君は…“犯しがい”がありそうだねぇ」
淀んだ眼光がフレイアの身体を舐め回す。
「――ッ」
フレイは思わず引き下がった。
「あはっ賢明だね☆君達が考えてるような事はしてないさ。ギャラルホルン…だっけ?あのラッパが邪魔だったからニブルヘイムに投げただけだし」
スルトがそれを再現するかのようにフレイを投げ棄てた。
「ちっ…蛮族が」
「フレイ…ニブルヘイムへの遠征準備を」
「賢い神は好きだよ☆あぁそれと――」
ニヤリとスルトがほくそ笑む。
「君の義兄弟君。僕にこんなのを渡してきたよ」
キラキラと光る宝玉を出す。
「エオルクランス?!」
「スルトォォォォォッ!!」
「フフ…ようこそミッドガルドへ」
スルトがエオルクランスを地面に叩き落とした。聴覚を削ぎ落とすような音を発てて割れたエオルクランスからは、視覚を奪う光が溢れ、身体を焦がす炎がフレイ、フレイア、トールそしてスルトの包んだ。
「先に行ってるよオーディン。待ってい、るか…ら……」
総てが燃え尽きた後に、綺羅々と輝く宝玉が転がっていた。




