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不変的な日常はいつもここに…②後半

人の居ないトイレというものは、独りで行くと何もいないのが分かっていても、つい後ろを振り向いてしまう。それくらいそこは不気味な場所だと思う。多分それは人間という動物が、背後を取られるという事に対し、霊長類の頂に進化した今も尚、動物的なものが染み付いているからつい反応してしまうからだろう。言えば、遥か前方にいる黒猫を発見してゆっくり近付こうと忍び寄る子供が、志し半ば、しかもあまり距離を縮めていないのにも関わらず振り向かれ、そして逃げられる、という一連の流れと同列の事。

だがしかし、今の僕は独りじゃないのにも関わらず振り向いてしまう。


「さっさと歩けや」


…うん。

こんな怖い人間が後ろにいるんだもん、振り向きでもしないといつの間にか意識とか飛ばしちゃってるかも知れないし。


誰もいない廊下をコツコツと歩くと直ぐにトイレに着いた。振り向いてみると顎で促され否応なしに詰め込まれた。


「あ、あの…僕が何かしたんでしょうか?」


トイレに入ると暫くの沈黙があったので我慢できずに声を出したが、それは上擦る。

身に覚えがないからこういう事を言っちゃうんだろうな。


「ひぃぃぃい!スイマセンスイマセンスイマセン!何かしたなら謝ります!」


「――」


スッゴい形相して見てくるんですけど!

スッゴい形相して見てくるんですけどぉ!!


「お前、王生萌留と、な…仲が良いって本当か」


「…は?」


は?じゃない!僕は何、死にたいの?!


「お!お…おおおおお!!」


「おああああああ?!」


ヒィ!殺されるー!


「お前は王生萌留と仲が良いかと聞いている!殺すぞゴルァ」


髪以上に真っ赤な顔をしたスルトがこっちを見ている。


「ぁいやその…ですね。僕としては別に――」


「そうか!そうかそうかそうかっ!!」


「え?ちょっと何か誤解して…」


何か知らないけど納得している様子。僕はこれで解放されるのか?否。そんな淡い期待をかっさらうように、首根っこを掴まれた僕はトイレから引きずり出された。


「アンタとは上手くやっていきたいと思ってっから、さっきまでの事を詫びるわ。すまん」


「…」


目の前に頭を下げている不良がいました。

あまりの豹変ぶりに拍子を抜かれてしまった。ポカーンとしていると一撃、タンコブが出来かけているオデコを叩かれた。…痛い。


「返事くらいしろよ」


「あ、あぁ。そうなんだ。これはどうも…」


何か企んでいるのはあからさまだ。だがしかし悪意は感じない。素直に応じるのが普通で、こちらはこちらで深々とお辞儀をする。


「さすれば、折り入ってお願いがあるんだが、聞いてもらえねぇか?」


おぉ…!

何か知らんが目覚めたんじゃないか!実は素直でいい人なんじゃないかと思う。


「ぼ、僕で良かったら――」


「王生萌留との仲を持ってくれ」


「…え?」


「王生萌留との仲を持ってくれないかと言っている!に、二回も言わせるな!」


…あら可愛い。顔が真っ赤ですわ。と、変な事は考えないで、これは断れない問題なんじゃないか!?

方程式が成り立つぞ。ここで断るイコール即死だ。



「…あああああ。言っておくけど、僕は彼女とはそんなに仲が良いってわけじゃないと思うよ?」


「なに言ってんだよ!アンタ程彼女と親しくしてる人は他に居ないぞ。俺が言うんだ。間違いないと思え」


“思え”かい。どんな根拠だよ。だがしかし断ると生きて帰れないから承諾するしかないんだろうな。


「分かったよ…僕に出来る事があったら協力します」


「そうか!ありがとな!俺は火神鋭人だ」


「僕は彩貴理亜。よ、よろしく…ハハハ…」


差し出された手を握る。こうして裏はあれど、僕とスルトは知り合いになったんだ。




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