不変的な日常はいつもここに…②前半
ガシャーーーーン!!
彩貴理亜の後方で硝子がはぜる音が鳴り響く。
「っるせぇ!殺んのかゴルァ」
「止めろって!」
「“止めろ”と言って気が済むんなら窓なんか割らねぇよ、徹!」
「何が気に食わなかった…――ッ!」
騒がしい男が徹の手を振り払った。ついでにそれは、徹の頭も叩いてしまった。
「痛ぇ!てめぇコッチが下手に出たら調子こきやがって」
ごちゃごちゃごちゃごちゃ…
雷門徹に羽交い締めにされているいきり立った青年の名前は、火神鋭人。髪が炎のように真っ赤なのが特徴で、多方面で色々な噂が聞こえてくる学校の問題児だ。
「(平穏は不穏があってこそ成り立つものなり、か)」
出来れば関わりたくないもんだ、と自分に集まった視線が一気に反れた事を機に、そそくさと教室を出ていったキリアだった。
ふと思った。そういえば…と。
「さっきの発光体は一体なんだったんだ?」
ぶつけたオデコを擦りながらパタパタと階段を駆け上がる。
昼休みはまだ半分ある。落ち着ける場所でのんびりしたいんだけど…屋上なんて如何なものかな。
「キ〜リ〜ア〜くんっ!」
歩いている途中で呼ばれた。
まただ…王生萌留だ。何故彼女は僕の前に出現するんだ?もしかして…
「ストーカー?」
ポカンと殴られた。いや、撲られた。“ポカン”とか可愛い表現じゃない痛さ。
涙目の僕をメルがニコニコ顔で覗くと、手を強く引っ張り何処かに連れて行こうとする。
「――ッ」
僕はつい反射的に払ってしまった。何だコイツ…。
「あら、こんなに可愛い私を振り払うなんて貴方、随分じゃない」
声の調子が明らかに別人となっていた。
「ご、ごめん…。でも――」
「でも、じゃないの。ボーヤはお姉さんに従ってくれればいいのよ」
尚も強引に手を取ろうとする。さすがに受け身一辺倒じゃ男が廃るってもん。
「…アンタ誰だ」
格闘技とかやってないけどそれらしいポーズで構える。確かテレビで観たのはこんな感じ。
「貴方が知っている王生萌留だけど、何か文句でも?」
何かも何も、明らかにいつもの王生萌留と違う。だって話し方が違う。なんつーかオバチャン臭い。
「じゃあ人違いだよ。君は僕の知らない王生萌留だよ」
「あら。知らなかった。女って裏表があるのよ」
「なら“知らなかったこと”にしよう。きっとお互いのためだ」
厄介事はゴメンだよ!そう言い残すとキリアは来た道を逆疾走した。特別追おうともしない王生萌留はただその走る姿を眺めていた。
「あぁーあ、フラれちゃったなぁ」
コツコツと歩く。彼とは逆の、一緒に行こうとした…いや連れて行こうとした方向に歩く。
「そりゃそうだろ。いくら大人しそうな男子だからって強引なのはダメだね」
誰に言うわけでもなくただ自分に言っている。
「だってお姉さんタイプに弱そうに見えたんだもん」
「柄にもないことするからだ。次は任せろ。僕の“本気”で落としてやるよ」
クスッと笑うが目が笑っていなかった。
「なんだよなんだよなんだよ!」
バタバタと廊下を駆ける。走っている最中に流れた景色の一部に『廊下を走るな!!』の文字があったような気がするが、そういう道徳心で済むような問題だったら僕は走ってなんかいないさ。おぉそうさ僕の頭はパニックさ。さっきの発光体といい、キチガイのスルトといい、大嫌いなトールいい、そして明らかに別人のメルといい…成績が万年平均点並(ちょっと見栄を張ってみる)の頭をフル回転させて出る結果は、異常、不穏、混乱。
自分の望む結果が出ない。だって考えてる最中からこれだし!
「へい!キリア…だっけ?モブいお前が何を血相変えて廊下なんか走ってくれちゃってるわけ?」
最悪だ…火神鋭人に遭遇した。ちょっと補足するならこの“遭遇”は『森を歩いていたら熊とばったりお見合い。それ逃げろー』に匹敵するものだ。だから僕は尚も駆ける。
「ゴメンね、スルト君。えーと…トイレ!そう、トイレ我慢出来ないんだ。悪いけどまたね」
「おー悪いな」
お、意外と普通に会話が成り立ったぞ!よしっ――
「――連れション、な」
ガッシリと肩を押さえられた。振り返る先には笑みを浮かべている鋭人がいる。
悪い目してるよこの人ー!
この瞬間チビりそうになりました。




