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不変的な日常はいつもここに…①

「ね〜ね〜そういや隣のクラスの田仲君の話、聞いた?」


「ん?」


噂話が飯より大好きかどうかは知らないが、いつもよく愉しい話を提供してくれるのは僕のクラスメート、王生萌留いくるみ める、女の子だ。そういう僕は彩貴理亜いろ きりあ、名前からは想像出来ないかも知れないけど列記とした男の子になる。

んで、いつもの通りに他愛もない話で休み時間を潰すといつもの通りに授業が始まる。これを何回か繰り返すと学校が終わり、家に帰ると学校から出された宿題をやり、何だかんだいって寝ちゃうと次の日が来る。毎日それを繰り返すと立派な大人になるんだとさ。


「僕としては別に問題はないんだけど」


何気なくふと思った事を口に出してみた。誰にも聞かれてはいないだろうな?あんまり目立たないように首を回し、教室を見渡すとやはりというか、当然というか、誰にも気付かれていなかった。


だよね。


だって普段からモブキャラ扱いされているし、今のだってきっと風の音か猫の鳴き声程度としか思ってないんだろう。しかしながら休み時間を迎えるとメルが寄ってきて言うんだ。


「何か問題あったの?」


机に手を置き屈むと覗き込むように僕を見上げて言うんだ。


「とくになにも」


僕の不変的な日常に問題なんかひとつもない。仮にあってもそれはただの台風だろう。いきなり現れてあたふたしている内に通り過ぎて解決。僕に付け入るスキは微塵もない。だからメルにもまた深い話とか難しい話とかしたことがない。第一、クラスのマドンナ的な存在、まぁ表現としては古いしマドンナというよりは、売れっ子アイドル的な…なんというか。僕とは対極に居るメルが、何故僕とわざわざ貴重な休み時間を過ごしているのかが理解出来ない。


「――でね、まーこがね私の事をバカにするんだよ。ヒドイよねそう思わない?」


やば…話聞いてなかったし。何か聞かれているけれど、なんて答えればいいんだろう。


「ん゛〜…」


「えぇ?!そんなに悩む事なの?キリア君ヒドイ〜」


「え?いや、違っ…その――」


「あはは嘘嘘。また上の空だったんでしょ?」


「ご、ごめん…」


「いいよいいよ〜私が勝手に来て、勝手に話しているだけだから」


「ごめん」


いつも勝手に来て、勝手に話して…メルは他の人といた方がいいと思うんだけどな。


「メル〜一緒に行こう〜!」


あれは同じクラスの法条依愛ほうじょう いあとその妹・れいだ。相変わらず二人は仲が良いなぁと思うが、因みに双子。外見もそうだけど性格も似ていない。活発そうで実は活発なイアとおしとやかなレイ。二人は特にメルと仲が良いように思える。


「あ、呼ばれたから私行くね」


「うん」


別に呼んだわけじゃないし呼び止めたわけでもない。素直に見送る。


「平和だなぁ」


ふと見上げてみるとそこには青く広がる空が続いている。ついでに言えば月も出ている。淡く白い月が夜を待てずに顔を出して、真っ青に続くキャンパスにアクセントをつけている。


「でやぁ!――ってオイ!!」


ガツンッ


痛い。

突き刺さるようにぶつかってきた物が頭に当たり落ちる。それは紙で出来た球状の物だった。新聞紙を丸めて、セロテープでぐるぐるに巻き付けて、カチンカチンになっている。


改めて、これは痛い。


「わりぃわりぃ」


あどけた表情で片手にグローブ(のような物)をつけ、もう片方では謝る仕草をしている雷門徹らいもん とおるがいる。


…またコイツか


率直に言うけれど、僕はコイツが大嫌いだ。生理的に、いや前世から嫌いだ。


何故なら――


「ごめんなぁ。つい愉しくてさ。お前も一緒にどうだ?え〜と…」


いろ。遠慮しとくよ。するなら屋内より屋外の方が気持ちいいと思うよ」


「そっか、そうだよなっ!んじゃ外行こうぜー」


「…」


やっぱり台風だった。だから嫌いなんだ。何かしら僕にちょっかい出すし名前も覚えてくれないし。


「あ、いたいた。キリア君、待った?」


「待った覚えはないけど」


「つれないなぁ。こぉんな可愛い子が話相手になってあげてるんだぞっ。両手を挙げて喜びなさい」


ビシッと突き付ける指。白くて柔らかそうな手をしているなぁと卑しい事一切無しで思った。


「わーい」


ご希望通り両手を挙げて喜んでみせる。力なく、だけど。


「わざとらしい」


当然。

メルはちょっと不貞腐れた表情だったがすぐに変わった。いつもの通りの、笑顔だった。


「貴重な休み時間、何も僕と話をして潰さなくてもいいんじゃないの」


「君はまたそう言う。キリア君は可愛い私と居るだけで良いの。細かいこと気にしない気にしない」


「全然細かいことじゃないんだけど…」


「ちっちゃいちっちゃい。男の子がちっちゃい事を気にしない方がカッコイイんだよ」


「それは男女差別だよ。僕は――」


「あーっと!そろそろ昼休みが終わりだー」


僕の言葉を遮り、自棄に感情がこもっていない声で言う。俗に棒読みというやつだ。


また逃げられたかな。


これは毎度ながらのパターンだった。僕の質問にあんまり答えてくれないメルはいつもこういった態度で回避しようとする。僕としてはあまり好ましい結果じゃないのは確かだから機嫌がいいわけじゃない。


「またね」


でも不変的な日常には不可欠なやり取り。僕はまた当たり障りのない1日をこなしていくんだ。そう思ってまた空を見上げるとさっきとは違った色をした空が広がっていた。

濃紺。天気が悪いという事ではないようだ。強いて言えば、物陰に入ったという感じ。それは夜でもなければ僕が夢を見ているわけでもない。


ドックン


鼓動を打つように空が揺れた。揺れた先にはさっきまでと変わらない真っ青に染まる空が広がっていた。

慌てて目を擦る。正確にいうと一瞬だけ目を遮った、だけど。


キラリと光る。

1つの光が瞬く間に眼前を覆い尽くす。光を“物体として認識する”ことは初めての事。極めて速いそれを反射的に交わそうとキリアは咄嗟に頭を下げる。


ガゴンッ!


「――ッ!」


いい勢いでぶつけた甲斐があってかその発光体との衝突は免れた。願わくば突き刺さる視線が無ければ、と思うキリアだった。




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