決戦
宝探しが始まってから三十分ほどが経過した。
「司令塔としてのヤスに聞く。これからどうするんだ?」
タケが訊ねてくる。
しかし、そんなこと今聞かれたって俺が知るわけもないのだ。
そもそもこのゲームにゴールがあるのかさえ、わからないんだから。
「さあな。いくらなんでも、いるのかどうかもわかんない虫の居所なんて
俺が知るわけないし、ここはとりあえず手当たり次第に探すしかないんじゃん。」
そうして、森から街路樹までを探し尽くすのに、二時間を消費してしまった。
残すは、あと四時間。
「おいー、どうするんだよ。ぜんぜんみつかんないー。」
とうとうユズが音を上げた。
もともとあきっぽい性格なのだからしかたないが、
さすがにここまで探してもみつからないんだから
もう今までの探し方はあきらめよう。
残すはあの場所だけ。
「みんな、覚悟はあるか。」
俺は真剣に訊ねた。
きっと、ただならぬ空気を察したのだろう、
ぐだぐだしていたみんなの表情が一斉に引き締まる。
そして全員うなずいた。
それを見て、俺は思った。
大丈夫だ、いける。
ゆっくりとかみしめるように言う。
「轟林に、行こう。」
みんなは驚かなかった。
黄金の堅武斗虫などという得体の知れないものがいる場所なんて
あそこしかない。
みんなはじめから、わかっていたのだ。
轟林
ミクロムーン島の約五分の一を占めると言われているその森は
異常に成長した木々達が密生する、今の科学ではどうにも説明できない場所。
不思議な力に守られた森と呼ばれ、人々に畏れられる場所。
そこに足を踏み入れることは、未知の領域に放り出されることを意味する。
そこに、行く。
「おっ、動きましたよ。リーダー。」
ひとりが振り向きざまに言った。
「どうやら轟林に行くみたいです。」
双眼鏡を持ったひとりも振り向いた。
そして、ひとりは楽しげに唇の端を上げるのだった。
「へー、やるじゃん。おもしろくなってきた。」
おかしな鳴き声がいたるところから聞こえてくる。
木々が葉をざわめかせ、足下はぬかるむ。
初めて訪れたこの森は想像以上に歩きにくい。
「よし、ここからは二組に分かれて探す。
いいな、恨みっこ無しのくじ引きで決めるぞ。
ツル、あれ、持ってるか。」
どこからともなく割り箸を取り出すツル。
「えっ、何で持ってんの?いつ用意したそれ。」
ニシの疑問は、「だって、使いそうな気がしたから。」
というツルの笑顔で切り捨てられる。
「この五本の割り箸のうち二本に爪であとをつける。」
言いながら俺はみんなの前でやって見せた。
ほら、ズルとかあったと思われたくないし。
「じゃあみんな一本ずつ持って。」
せーの、で俺が引いたのは、さっき自分で作ったあとつき割り箸だった。
さっと他の四人の割り箸を確認。
あとつき、あとつき、あとつき・・・・・
そのとき、声があがった。
「あっ、これあとつきだー!」
・・・・・・なんで、こいつなんだ。
俺は楽しげにスキップしながら歩いているユズを見て溜息をついた。
「おい、危ないからあんまり跳んだりはねたりすんな。
転んでもしらねーからな。」
言った直後に派手につまずくユズ。
更に大きな溜息が出てくる。
「おーい、だーいじょーぶー?」
立ち上がったユズのひざは、見ているだけでこっちまで痛くなってくるほどすりむけていた。
「いってー・・・・・・」
「だから言っただろ。もうちょっと大人しく歩け。
見てるこっちが痛くなる。」
「でも、大丈夫だよ。こんくらいのケガ、三日に一度はできるし。」
・・・・・・恐るべし、自然治癒力。
そしてユズはまたスキップを始めた。
まったく、今日はツいてない。
くじ引きで二人組の方になってしまったのがそもそも運の尽き。
しかも、もう一人がよりにもよってユズ。
いや、ユズが嫌いな訳じゃないんだ。
その運の良さもありがたい。
ただ、こいつと二人だけでなんかをするっていうのは・・・・・・
なんていうか、一人でするより五倍キツイ。
ポルデリートみたいに単純なことを繰り返すんだったらいいんだ。
でもこれは未知の森で未知の生物を見つけなければならない。
複雑なこと山のごとし。
運の良さだけでは、その天然キャラをカバーしきれないのだ。
あああ、どうすればいいんだ。
「ヤス、大丈夫かな。」
ニシが誰にともなく言った。
だって、あのユズを連れてこの森を探すなんてのは至難の業。
さすがのヤスでも途中でいやになるに決まってる。
「さあ、どうだろうな。
でも、くじ引きの言い出しっぺはあいつだし、どうなってもそれはあいつの責任だ。」
「なんだよタケ、冷たいじゃん。」
いつものタケらしくない発言につっこんだのはツルだ。
「いや、そんなことない。俺はただあいつのことを信頼してるだけだ。」
「そんなこと言って、ホントは自分があっちのグループじゃなかったことに安心してるくせに。」
「なんだと?」
「大丈夫だよ。あいつならなんとかしてみせるさ。」
険悪になりつつある空気を和やかに閉じさせるのはニシの役目。
そして、誰もしゃべらなくなった。
ただ黙々と前に進む。
おおいしげる植物をかわしながら。
時々きこえる奇妙な鳴き声におびえながら。
時にはつまずいたり、滑ったりもした。
『ここには得体の知れないモノがいる。』
はっきりとはわからないが、人間が入ってきていい場所などではないことに
そろそろ三人は気づき始めた。
沈黙の中、不安は大きくなる一方だった。
「リーダー、なんか重っ苦しい空気になってきましたよ。あの三人。」
双眼鏡を持った一人が言った。
「そろそろなにかしましょうよ。見てるだけじゃ退屈だし。」
ちゃっかりおやつを食べ始めた一人が言った。
「いや、お前なに一人で食ってんの、ちょっとくれよ、いや、やっぱいいやめとく。
・・・・・・では、いこうか」
「「らじゃー!!」」
三人は草陰から飛び出した。