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宣戦布告


いつの間にか雨は止んでいて、道路の水たまりに虹がかかっている。

「おばちゃーん、ありがとねー。」

リーダーのタケが紙をひらひらさせながら「駄菓子屋ここなっつ」を出た。

「お前ら、行くぞ!」

おおー、やる気満々だねー。

ただ、状況を理解していない者が一人。

「いくって、どこにさ。」

ユズが訊ねた。

どこまで話をきいてないんだろう。

でもそこはリーダー、かけ声を一つ。

「黄金のカブトムシ~!!」

「ゴールデンビートル!!」


それは突然やって来た。

こんなこと誰が予想した?


俺たちがいざカブトムシを捕りに行かん、と

勇んで歩き出した時のことだ。

「キ、キ~・・・・・・」

背後で急ブレーキの音。

何があったのかと一斉に振り向く。

俺たちが目にしたのは、

自転車にまたがった三人の少年たちだった。

「これはこれは、もしかして君たちがゴールデンビートルズか?」

右側の少年がいきなり芝居っぽい口調で話し出した。

なんだ、なんだ?誰だこいつらは。

俺たちの間に緊張が走る。

続いて左側。

「噂に聞くところ、このあたりの張り場をすべて吸収したとか。」

また芝居口調だ。

イライラするからやめてほしいんですけど。

そして、真ん中。

「少し話がしたい。」

タケが一歩進み出る。

「竹本勇大、ここのリーダーだ。

話の前に訊いておく、お前たちはなんだ。」

おおっ、きまってるねー。

右側が肩をすくめ、首を振る。

「おやおや、われわれを知らないとは。ここは情報の伝達が遅いようで。」

なんか本気でイラっときた。

俺の両隣で歯ぎしりの音。

次に左側。

「それとも、外のことになど関心もないということか。」

そこまで聞いたとき、俺はイライラしているだけではいけないことに気づいた。

そうだ、俺はこのチーム唯一の頭脳派。

やつらを分析する役目がある。

今までの状況と言葉から、真ん中の少年がリーダー格であることはまず間違いない。

そしてこの態度。

よほど自分たちに自信があるのか、それともただ威勢を張っているだけなのか。

まだわからないか。

あとは先ほどのセリフだ。

話の流れから察するに、「外」というのが俺たちの張り場の外であることは明らかだ。

ただ、自転車に乗っていたところからすると、島の外から来たわけではないようだ。

ミクロムーン島で俺たちの張り場になっていない場所。

やつらはそこからやって来た。

真ん中の番だ。

「知らないのなら仕方がない。こちらだけ情報を持っているのは不公平だからな。」

とうとう名乗るか。さあこい!

「いばらすすき!」

「きさらぎかなた!」

「じんぐうじいぶき!」

「「「われら青空決死隊!!」」」

今までの順番を忠実に守り3人は名乗った。

それぞれの名前のあと最後にバシッとポーズを決めるこの名乗り方・・・・・・

チームか!

ということは、俺たちのまだ知らない市外チームだろう。

それにしても、この息のあった完璧なパフォーマンス。

すすき、かなた、いぶき、それぞれの頭文字をとった「スカイ」からの

「青空決死隊」というチーム名。

俺たちがテキトーに決めた名前とはくらべものにならない。

『並のチームじゃない。』

みんなもそう感じたらしい。

俺たちの間に緊迫した空気が流れる。

タケが目配せをした。

そうだ、こっちも名乗らないと。

俺は息を吸い込んだ。

「やすかわりょう!」

「にしむらもとき!」

「ゆずきさとる!」

「つるみなぎさ!」

「たけもとゆうだい!」

「「「「「われらゴールデンビートルズ!!」」」」」

よし、ポーズもキマっていい感じだ。

どうだ、とばかりに相手の方を見やる俺たち。

しかし、青空決死隊はそんなこと気にもしていないようで、

あのムカつく芝居口調で平然と話し出した。

「話というのはもちろんバトルのことだ。」

「それぞれの張り場をかけた神聖な戦いをしようではないか。」

「戦利品には事欠かない。

こちらも君たちと同じくらいの広さを誇る張り場を持っている。」

なに!?今なんて言った!?

まさかあいつらも張り場争いを勝ち抜いたとでも言うのか!

「お互い大きい勝負ゆえ、恨みっこ無しの三回戦とする。」

「内容は全てそちらに任せるとしよう。」

「さあどうする。のるか、ひくか!」

張りのある声が余韻を残して消えた頃、俺たちは叫んだ。

そんなの、きまってる。

「「「「「その勝負、受けた!!」」」」」


「まっさか、市外にあんなチームがいたなんてなー、思わないよなー。」

ツルがオレンジ味のアイスをなめながらつぶやく。

あの宣戦布告から二日が過ぎ、今日は「駄菓子屋ここなっつ」で作戦会議だ。

昨日、情報収集担当のツルがあちこち駆け回ってくれたおかげで

なかなか興味深い情報をたくさん手に入れることができた。

それによると、あの「青空決死隊」は隣の市で大暴れしている

最強のチームだということらしい。

俺たちと同じように、張り場争いに勝ち続け、

とうとう一週間前、市内の張り場を全て吸収し、

それでも飽きたらず隣の市にも手を出した、と。

なんでも、そこのリーダーであるじんぐうじいぶきは

この島でも一番の起業家、神宮司グループの御曹司らしい。

中でも一番驚いたのは、あの時いつも一番最初にしゃべってたやつが

なんと女だったということだ。

たしか、いばらすすきとかいうやつだ。

男だとちょっと高めで女だと低めな声と、

男だとちょっと長めで女だと短めっていう中途半端な髪型のせいなのだが、

そんなことも見抜けなかったとは、俺の目も悪くなってきたか。

そして残る一人、きさらぎかなた、こいつが謎に包まれている。

彼のことを誰に訊いても、核心を突く答えが返ってこなくて、

まともな情報が何一つ入ってこなかったという。

それにしても、女のいるチームなんて聞いたこともない。

自分から仲間に入れてくれと頼む勇気があるのは認めよう。

ただこの張り場争い、女にはちょっときついぜ。

ガラガラっと店の引き戸を開ける音

「ただいまー。」

「青空決死隊」のリーダーとの打ち合わせをしに行っていたタケが戻ってきた。

「どうだったんだよ。」

ニシが待ちきれずに訊ねる。

「勝負は明後日。時間は午前八時。あいつらがここに来る。

内容は三種類、俺たちが全部決めていいらしい。

勝てば張り場が増えて、負ければなくなる。」

言い終えて、タケが心配そうにこちらを見てきた。

「ヤス、この勝負、受けてよかったと思うか?」

俺は少し考えてから答えた。

「よかったんじゃないの。ちょうど暇してたとこだし。それに・・・・・・」

言葉を切る。

そう、いくら敵が強くてもいいじゃないか。

負けたっていいじゃないか。

ここでいつまでもくすぶっているよりは。

「聞いてくれ、いい考えがある」

勝負はもうすぐだ。

弱気になってどうする。

ゴールデンビートルズは絶対不滅だろ?


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