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黄金の堅武斗虫

小さき月の形した

島に集まる堅き武者

金に輝くその姿

月にも負けぬ美しさ

 

 

「せんこ~く!ブラックレモンカスタード諸君!

われわれゴールデンビートルズが宣戦布告に参上した!

ポルデリートで決着をつけようではないか!

ただし、強制はしない!

のるか、ひくか、10秒後に叫べ!

じゅ~う、きゅ~う、は~ち・・・・・・

・・・・・・さ~ん、に~い、い~ち、

返答!」


「参りました・・・・・・」


こうして、俺たちの張り場はどんどん大きくなっていった。


ある大雨の日のこと。

俺たちは本部である「駄菓子屋ここなっつ」でいつものようにやっていた。

「さて、今日は雨が降っててなんか気分が乗らないから張り場の拡張はいったん休止にする。

いいか?」

「うぇーい。」

ガムをクチャクチャさせながらやる気がなさそうに言うリーダーに

どっちだかわからないこれまたやる気のない返事をする俺たち。

ここ一週間はずっとこんな感じだ。

張り場を広げるわけでもなく、作戦を練るわけでもなく。

駄菓子を右手にマンガを左手に、ただダラダラと時間をつぶしていた。

まあそうなってしまうのもしょうがないといえばしょうがないのだ。


1年前、偶然同じクラスになり、偶然席が近くなった5人で

冗談半分のチームをつくった。

名前は「ゴールデンビートルズ」。

これも、誰だったか忘れたがメンバーの一人の

「なんか、カブトムシってかっこよくね?」

という一言でテキトーに決めたものだ。

つまり、当時では珍しいどこまでもゆる~いチームだったのだ。

俺たちは「駄菓子屋ここなっつ」を拠点に少し小さめの張り場を決めて

毎日そこに集まった。

周りのチームが張り場争いに大奮闘していても、俺たちは関わらなかった。

張り場の広さなんか気にしなかったからだ。

しかし、張り場争いはどんどん勢いを増していき、

「ゴールデンビートルズ」もこれに参加せざるをえなくなった。

争いに負ければ張り場を吸収されてしまうからだ。

そして、バトルを繰り返していくうちに俺たちは気づいた。

『この張り場争いってやつで、負けたことないじゃん!』

そう、「ゴールデンビートルズ」は自分たちの想像以上に強かったのだ。

それからすっかり調子に乗った俺たちは周りのチームに次々とバトルをしかけた。

俺たちはいつの間にかこのバトルにハマっていたのだ。

連戦連勝の優越感に酔っていたのかもしれない。

気づいたら、敵は一人もいなくなっていた。

途方もなく広い張り場と虚脱感だけが残った。

結局、俺たちは吸収した場所に足を踏み入れることもなく

最初と全く変わらない広さのまま、張り場での放課後を消費した。

きっと、張り場争いは俺たちの生き甲斐?みたいなモンになっていたんだ。

生き甲斐をなくした「ゴールデンビートルズ」はもうダラダラすることしかできないのかもしれない。


「アンタらさー、子供なんだからもうちょっと元気になりなさいな。

前はあんなにさわいでたのに、最近はめっきりおとなしくなって・・・・・

そんなにダラダラしてたら、そのうちダラダラ星人になっちゃうよ。

それでもいいのかい?」

店の奥からおばちゃんが声をかけてきた。

「ダラダラ星人って・・・・・・」

誰かがつぶやくとおばちゃんがこっちにやってきた。

「アンタら、ダラダラ星人ナメちゃいけないよ。

ダラダラ星人になるとね、毎日毎日やる気がでなくて

寝っころがったまんま腐っていくんだから。」

あーやだやだ、と首を振っているこのおばあちゃんは

「駄菓子屋ここなっつ」の店主だ。

すなわち駄菓子屋のおばちゃんである。

おばちゃんは「ゴールデンビートルズ」結成時から

ずっと俺たちのことを見守ってくれている一番の理解者だ。

きっと元気のない俺たちを心配しているのだろう。

「そんなこと言ったっておばちゃん、なにしたらいいのかわかんないんだよ。

明日が見えないんだよ。」

リーダーが絶望的な声で言った。

「うわぁ、生意気いってるよ!これだから最近の子は。」

おばちゃんは、しょうがないねぇ、と首を振りながら奥へひっこんでしまった。


なにやらがさごそと音がする。

店の奥の方、さっきおばちゃんが引っ込んだときからだ。

「おいヤス、なにやってんだろ、おばちゃん。」

隣の西村智樹=ニシが小声で囁いてきた。

「さあ、そろそろボケてきたか?」

適当に返すと、反対側の柚木聡留=ユズが食いついた。

「え?そうなの?やばいじゃん。」

「いや、まだわかんないけど。」

「なになに、何の話?」

鶴見渚=ツルも加わり、ひそひそも大きくなってくる。

ざわざわが広がる。

ここまできて、リーダーが何も言わないはずがない。

竹本勇大=タケが口を開いた。

「おまえら、うるせーんだよ!今いいとこなん・・・・・・」

が、それはバーンという音に遮られた。

「アンタら、これを見な!」

正面の壁に押しつけられた紙が目に飛び込んでくる。

「なんだよおばちゃん、びっくりさせんなよ。」

リーダー以外全員の口が閉じた。

「いいかい、これはね、古くからこの島に伝わる歌なんだよ。

もうこれを歌える人はいないんだけどね、

伝説になって残ってるっていう、ありがた~い歌なんだよ。

もしかしたらほんとにいるのかもしれないよ。」

おばちゃんはまだ何か言っているリーダーに紙を渡した。

みんなの頭が集まる。

それにはこんなことが書かれていた。


小さき月の形した

島に集まる堅き武者

金に輝くその姿

月にも負けぬ美しさ


「小さき月の形した島っていうのが

ここ、ミクロムーン島だっていうのはわかるね?

堅き武者っていうのはカブトムシのことなんだよ。

それが金に輝くっていうことは?」

「ゴールデンビートル・・・・・・」

ニシがつぶやいた。

「そう。ここには黄金の堅武斗虫がいるんだよ。

甲虫じゃないよ、堅武斗虫だからね。」

耳で聞くだけじゃどうちがうのかわからないが、

この際そんなことどうでもいいか。

「おい、おばちゃん、耳で聞くだけじゃどうちがうのかわかんないんだけど。」

ユズ・・・・・・

おばちゃんが無視して続ける。

「ほらアンタらのチームとやらの名前ともおんなじだし、

ここでダラダラ星人になるよりはましでしょ。

さがしてくれば?

男の子ってカブトムシ好きだよねぇ、それが金ピカなんだよ。

ほら、探しに行ってこよう!」

なんか急に若返ったようなおばちゃんに押されて、

俺たちはまあいいかなーと思っていた。

ただ、タケだけはちがった。

「だーれがそんなのにのせられるとおもってんだ。

黄金のカブトムシなんてホントはいないんだろ?

その紙だって、さっき書いてきたにきまってる。

もともといないモン探すなんてそんなことはしないんだよ。」

ああー、これだから鈍感君は困るんだ。

それだっていいじゃないか。

黄金のカブトムシなんていないかもしれない。

でもおばちゃんは毎日ダラダラしてる俺たちを心配して

わざわざこんなことしてるんだから。

そのくらい察しろよなまったく。

俺は心の中で溜息を一つしてからリーダーに言った。

「俺、聞いたことあるんだけど、黄金のカブトムシ。この前いとこが見たって。」

こんなのうそにきまってる。

でも、司令塔と呼ばれる俺の言葉をみんなが信じないわけがない。

「おいヤス、それホントか?まあそうだよな、ヤスが言うんだもんな・・・・・・」

考え込むリーダー。

よし、かかった。あともうちょいだ。

「まあいいんじゃないの。もし見つかんなくっても一夏の思い出ってやつになるし。」

こういうかっこいい言葉にタケは弱い。これで決まることはまちがいない。

しばらくして、タケが言った。

「よし、じゃあ行ってみるか。みんなで一夏の思い出をつくろうぜ!」

「おーっ!」

ふっ、チョロいな。

俺は心の中で不敵に笑った。

男子とはカブトムシを追い求める生き物である。

これは古来からの習性だ。

このチームに例外はいなかった。

俺、ヤスこと安川涼もふくめて全員。


こうして俺たちの戦いの火ぶたは切って落とされた。

ただ、これはまだほんの始まりの始まりであった。


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