No.2 脱出
爆炎と焦燥が渦巻く回廊を、No.0はただ必死に駆け抜けていた。 前を行くNo.63の赤い髪が、暗い通路の中で唯一の道標だった。背後からは魔導兵器の駆動音と、逃走を許さぬ冷徹な術式が迫る。しかし、No.63が放つ猛烈な炎の壁が、それらすべてを焼き払い、強引に道を切り開いていく。
「あともう少しだ……! あの光の先が、出口だ!」
No.63の叫びに呼応するように、視界の先に真っ白な外光が見えた。 だが、その光に手が届こうとした瞬間。
唐突に、No.63の身体が不自然なほど硬直した。見えない杭で地面に縫い付けられたかのように、彼は一歩も前へ進めなくなる。
「……ッ、が、あ……!」
「……No.63?」
No.0が問いかけると、彼は苦悶に満ちた表情で自らの脚を見下ろした。その皮膚には、血管のように赤黒い呪印が浮かび上がっている。
「ちくしょう……忘れてたぜ。俺みたいな『貴重な個体』には、逃走防止魔術が刻み込まれてたみたいだ……」
その声は震えていた。No.0は咄嗟に彼の肩を掴み、その身体を外へと押しやろうとする。
「私がお前を外へと押しやる。だから、早く、私の腕を掴め……!」
初めて、自らの内から出た必死な声。だが、No.63は悲しげに首を振った。
「無駄だよ。魔術で縫い止められてるって言っただろ……物理的な力じゃ、どうにもならねぇんだ。お前だけでも行け。お前は……『無色』のお前なら、この呪いにはかからねぇ」
No.63は震える手で、自らの腰に差していた水晶の短杖を抜き取った。それは、彼が唯一持っていた、彼の存在を証明する道具だった。
「代わりに……これを。俺の杖をお前にやるよ。俺の代わりに旅してさ……俺に、ここよりもマシな世界があるってことを、いつか教えてくれ……」
「そんなの、……」
「行けッ!!」
No.63が最後に見せたのは、最高に不敵で、そしてあまりに寂しい笑みだった。 彼はNo.0を全力で光の中へと突き飛ばすと、自らの体内に眠る魔力を逆流させた。
――ドォォォォォンッ!!
凄まじい爆発音が鼓膜を震わせ、衝撃波がNo.0を外の世界へと放り出す。 振り返った瞬間、出口は崩落した岩石によって完全に封鎖された。
砂塵が舞い、静寂が訪れる。 二度と、あの施設に戻ることはできない。そして、あの赤い髪の男が再び現れることもない。
No.0の手の中には、彼から託された冷たい水晶の短杖だけが残されていた。 空は、どこまでも広く、彼が知る施設の天井よりもずっと高く、無情なほどに青かった。




