No.1 炎
静寂を切り裂いたのは、地鳴りのような衝撃だった。
遠く、あるいは近くで、何かが激しく破砕される音が響く。続いて、施設の警報が狂ったように鳴り響き、男たちの怒号と悲鳴が鉄筋の壁を伝って振動として伝わってきた。
施設全体が、巨大な獣に揺さぶられているかのように激しく震える。天井から剥がれ落ちた塵が、No.0の白い頬を汚した。しかし、彼は動かなかった。
逃げる理由がない。 生きる気力もない。 彼という「器」を動かすための動力源は、この無機質な檻のどこにも転がっていなかった。
だが、運命は彼に沈黙を許さなかった。
「……おい、生きてるか!」
檻の扉が、外側から凄まじい力で抉じ開けられた。 そこに立っていたのは、施設に似つかわしくない、燃えるような赤色の髪を持つ個体だった。同じ規格の顔立ちをしていながら、その瞳に宿る光は、No.0が今まで見てきたどの人間や人形とも違う、激しく、生々しい熱を帯びている。
No.63と呼ばれたその個体は、呆然とするNo.0の腕を、痛いほどの力で掴み上げた。
「立て。……ぐずぐずするな、ここを脱け出すぞ!」
抵抗する暇もなく、強引に冷たい床から引き剥がされる。No.0は力なく足を動かしながら、その赤い背中に、かすれた声を投げかけた。
「……どこへ、行く……?」
目的など、彼には理解できなかった。外の世界は、この檻よりも過酷かもしれない。あるいは、ただ廃棄される場所が変わるだけかもしれない。
No.63は振り返りもせず、迫り来る爆煙と混沌の先を見据えたまま、短く吐き捨てた。
「どこだっていい! ここよりはマシなところへ、マシな地獄へ逃げるんだよ!」
その言葉に込められた圧倒的な拒絶と、わずかな「希望」のような響き。No.0は、初めて自分以外の存在から放たれた強烈な意志に当てられ、理由も分からぬまま、その赤い影を追って走り出した。




