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大栄 二

砦から煙が上がるのが見えた。孫堅からの合図がきたのだ。


黄蓋は手勢を率いて矢の届かない、直前の距離まで進んだ。


「銅鑼をならせ。雄叫びをあげろ」


一気に銅鑼がならされ、兵が叫び出す。


反対側の呉景達も同じことをしているだろう。


これで砦の兵は包囲されていることに気づき、しかも実際以上の兵数に感じているだろう。


「盾を出せ。火矢」


小勢と悟られないよう、林に身を隠しながら少しだけ前進させ、盾を持った仲間が並ぶ。


そしてその後ろから火矢が射られる。


なんとか届く距離からの矢なので、殺傷力は皆無だが、砦に火をつけることはできる。


すぐに消されるが無視はできないはずだ。外から陥とすことは困難だが、これで砦の兵力全てが、中にいる孫堅達に向かうことを防げる。


向こうからも矢が射られてくるが、こちらに届くころには勢いも弱く、並べた盾を貫通する事もない。


「班憲は出てこないか」


元々ここの砦の指揮官だった男だ。許昌とは知り合いだったようなのだが、どういった関係かは分からなかった。


ただ、かなり腕が立ち、指揮の手並みも卓越したものがあるらしい。


この間の官軍との戦も、攻めあぐねている官軍に対し、突如砦から打って出て、散々に打ち破ったそうだ。


まだ出てこないところをみると、おそらく砦に侵入した敵を討ち取ってから、黄蓋達に当たるつもりなのだろう。


いくら外から攻められても、早々に砦が陥ちることはないと踏んでいるのか。


二刻(一時間)程射ち続けたところで矢が尽きかけてきた。


林に身を隠しながらだが、小勢であると悟られにくいように、かなりの勢いで射続けたため、大量に持ってきた矢もすぐになくなってしまう。


少数とわかってしまえば、十分に敵を引き付けることができなくなってしまう。


「まだ許昌の首は獲れぬか」


孫堅の策を次の段階に進める時がきた。


黄蓋は矢をつがえ、弓を引き絞る。普通の弓よりも二回り程大きく、かなりの強弓であり、仲間の中でもこの弓を引くことが出来るのは黄蓋だけだ。


城壁の上で矢を射ている兵に狙いを定め矢を放った。


火矢とは段違いの勢いで敵に向かって真っ直ぐに飛んでいく。


城壁の兵の胸に矢が当り、そのままの勢いで兵が飛ばされた。


信じられない物を見たように混乱する兵に向かい、またも矢を射る。


肩口に命中し、またも吹き飛ばされる。


強弓の射手がいることを理解した城壁の兵が急いで盾を並べる。


「今だ。残ったありったけの火矢を射こめ」


残りの火矢が一斉に放たれる。火を消そうにも、黄蓋の矢が飛んできて、思うに任せない。


こうなれば敵はすぐに黄蓋達を追い払いたいはずだ。


案の定砦の門が開けられ、指揮官らしき男を先頭に、武装した兵が飛び出してきた。


おそらく7、80人といったところだろうか。まともにぶつかればまず勝ち目はないが、これで砦の兵の半数は引き出せた。


「隊形を組め」


すぐに十二人が戟を並べ、黄蓋含む残り九人がその後ろで剣を構える。


こういった動きが素早くとれるのはあの一月あまりの調練の賜だった。


敵兵が目前に迫る。何人が生き残れるか。相当な調練は積んできた。一人で四人を相手にすればいいだけだ。しかも黄蓋なら三十人は仕止める自信がある。


だが、砦から出てきた部隊の動きはこちら以上の錬度を感じる。まさか班憲か。許昌の護衛よりまずはこちらの殲滅を優先したのか。しかし、それならば孫堅達はやりやすくなるだろう。


身体に緊張を漲らせたとき、突如先頭の指揮官が振り返り後続の兵を斬り殺した。


指揮官の突然の行動に対して、兵達の混乱が黄蓋の方でも手に取るように分かった。


一緒にいる倭人達も同様にいくらか戸惑っている。


「今だ」


剣を振り下ろし、突撃の合図を送る。


指示通りに倭人達含め、総員で黄蓋達は敵の中に躍りこんだ。どのような状況でも号令通りに動くよう頭ではなくまず身体に染み付いている。


四倍ほどの数の敵だが、不意を衝かれ指揮官も失った兵は脆く、次々と倒されていく。


特に指揮官の男の剣捌きは凄まじく、それまでの仲間であったはずの兵を容赦なく斬りすてていく。


城壁の敵も弓の届かない距離で、成す術もなく傍観している。


一人残らず倒しきったところで、門が閉じられた。


「お前が紛れていて良かった」


返り血で染まった程普がこちらを振り返る。


「しかも指揮官だとはな」


「官軍との戦で班憲に認められたのだ」


程普は孫堅に許昌の砦に入り込むよう指示を受け、一年ほど前から潜入していた。


密偵というより、この時のために内部から呼応するためだ。


なので、許昌の配下となってから孫堅達とは一切の接触はなく、時には逆賊として官軍との殺し合いを余儀なくされたであろう。


そして今日この日、何の打ち合わせもないまま孫堅の策の通りに行動を起こしたのだ。


こちらの状況が一切分からないまま、一年以上賊徒に身をやつし、自分を失わずに孫堅を待ち続けることができたのは、驚異的な精神力と信頼関係だと言わざるをえない。


無論黄蓋も孫堅を信じてはいるが、怪しまれることなく一年も許昌のもとにいることは出来なかったと思う。


ふと、倭人達が程普に対して警戒していることに気づいた。敵ではないとわかるが、何者なのか判断できないのだ。


黄蓋も程普がどういった形でこの戦に絡んでくるのか予想がつかなかったため、倭人達には何も言っていなかった。


「悪いなお前ら、こいつの説明はまたあとだ。まずは勝鬨をあげろ」


仲間達と吼えた。まだ戦は終わっていないのだ。


成功の合図が孫堅達からない以上、ひたすらあの砦に対して圧力をかけ続けなければならない。

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