第7話 心優しく情に厚い、気の良い生き物
外も薄暗く、日の光がほとんど届かない木々に覆われていた。
さっきは気が付かなかったが、蔓でできた大きな巣と頑丈な壁のような木々に埋め尽くされている。
必死に、本に書いてあった内容を思い出した。
生態について書いてある本を少し読みかじっただけだ。それよりも、絵本にヴェズルフェルニルが出てくるものがあったような気がする。
そこまで思い出して苦笑する。絵本の彼は本物の姿とは全く違っていたからだ。すぐに思い出せなかったのは、おそらくそのせいだろう。
こんな物語だった。
ヴェズルフェルニルは、森の番人と言われている。
彼が守る森は、とても神聖な場所で、古くから大切にされていた。
その場所の番人である彼は、森の魔法動物から恐れられていた。見た目も、翼も、鋭い瞳も、怖がらせるものばかりだった。
だが本当は、とても心優しく情に厚い、気の良い生き物だったのだ。
いつも一人だけでいた彼のもとにある日、一人の魔法使いが現れる。
森に侵入者が来たと思い、警戒するが、魔法使いは、森の上を飛んで行けば目的地まですぐだから通り抜けさせてほしいと頼んだ。
事情を聴けば何てことはない、ヴェズルフェルニルはそれくらいならとそれを許した。
魔法使いは、最初は本当に近道がしたいだけだった。しかしどうだろう、森の木々は見たこともないほど立派で、葉は強力な魔力を持っている。
魔法使いは一枚だけならと、葉を千切った。
その瞬間、木々は急激に伸び、魔法使いを捕まえようとした。空は曇り、次第に雷雲が広がる。
何とか森を抜けた魔法使いだったが、葉はすぐに塵となり、森の戒めの魔法を受け、二度と空を飛べなくなった。
ヴェズルフェルニルは、魔法使いが葉を盗んだことを知ると、自分も罰を望んだ。
森の番人としてのけじめだった。二度と自分は空を見ることのないように、巣を木々の間に造り、空を封印した。
すっかり落ち込んでしまったヴェズルフェルニルを見て、森の魔法動物たちは話し合った。
彼らは本当は、怖かったわけではなく、尊敬していて近づけなかっただけなのだ。
優しい魔法動物だということは、森中が知っていた。
ヴェズルフェルニルを救いたい。
こうして、森の魔法動物たちが団結して、彼を救うため動き始めるのだった。
この絵本は作り話だという意見と、魔法使いとの確執がそのまま描かれた本当の話だという意見に度々分かれる。
本当の所は誰にも分からないのだが、もしも、この話が少しでも事実に基づいているのなら、考えられることがあった。
ヴェズルフェルニルは、森を守っている。
空の見えない森、高い高い木々、巣に埋め尽くされた木、ヴェズルフェルニルは、空で生きる魔法動物。魔法使いとの確執。空を見上げる悲しげな瞳、巣の上は飛ばないヴェズルフェルニル。
ミラがここに連れて行かれた理由。
「もしかして」
浮かんだ答えに確信があったわけではない。でも、ミラはこの理由にかけようと思った。
やることは見えた。だが、方法をミラは知らなかった。自分のできる魔法で、それが可能なのかも分からない。
丸太のように太い枝の上に立つ。見上げると、やはり空は見えない。こんなに高くまで昇って来たのに。
ミラがやらなければいけないこと、それは、
空を開放することだ。